親友の彼

はくのすけ

第一話 親友と親友の彼

 人で賑わう駅前のカフェで私は祥子しょうこと祥子の彼氏である京輔きょうすけ君と三人でチャイティーラテを飲んでいる。


 祥子は少し茶色掛かった髪にエアウェーブを掛けている。

 小顔の祥子にはとても似あっていて可愛らしい。


 京輔君は黒い髪をアップバングショートで決めている。

 少し童顔な感じがとても可愛らしいと感じる。


 とてもお似合いのカップルだと思う。


 祥子は私にとって大切な親友で、小学校の時から大学までずっと一緒だった。

 お互い社会人となり別々の会社に就職したのは3年ほど前の事だ。

 しかし私たちはいつも仕事が終わるとどちらかの家に行き、何でもない話をずっとしていた。


 1年ほど前に、祥子から紹介したい人がいると言われた。

 祥子の恋人の事だとすぐに分かる。

 私は祥子に相応しいか判断することも兼ねて京輔君と会った。


 一目惚れだった……

 私の心は一瞬で京輔君に奪われた。

 それからは胸が締め付けられそうな想いで過ごしてきた。

 祥子に本当の事など言えるわけなどない。

 それに祥子も京輔君もお互いに愛し合っているのは見ていて分かる。

 第三者である私の入る隙など微塵もない。


 祥子からは

「京輔の誕生日、何あげれば良いかな?」

 と言われ


 京輔君からは

「祥子、今日、仕事で失敗したみたいなんだけどどう慰めれば良いと思う?」

 と聞かれることもあった。


 はっきり言おう。

 そんなの知らないよ!

 自分で考えろ!

 と言いたくなる。

 人の気も知らないで……

 そんな八つ当たりなんてみっともないとは分かっている。

 でも私の気持ちはどうすることも出来ないの。

 抑えつけておくこともそろそろ限界かも知れない。

 そう思いながら1年が過ぎた。


「これからどうする?」

 キャラメルフラペチーノを飲み終えた祥子が私と京輔君を見て言った。

「映画とかどう?」

 京輔君がとうの昔に飲み終えたはずのカフェモカにストローをつけながら言う。


「二人で行ってきなよ」

 これ以上、二人と一緒に居たくないと思った私が言うと

「えー!どうして?遥佳はるかも一緒に行こうよ」

 駄々をこねる祥子に便乗するように

「そうだよ!一緒に行こう」

 京輔君も言った。


「でも……」

 断りにくい状況になってしまった。

「行こう!」

 私の手を祥子が握る。

「うん……」

 やはり断れなかった。

 祥子と京輔君は嬉しそうな笑みを浮かべ立ち上がった。

 釣られて私も立ち上がる。


 そのまま三人で映画館に向かった。

「何見るの?」

 映画館の前で映画の広告を見ながら聞くと

「これにしよう」

 祥子が指差した。


 ……

 祥子……なぜこんなの選ぶの……


 映画は主人公の恋人の彼氏が莫大な借金をして、その借金を肩代わりしてくれるとてもダンディな男性が現れる。そのダンディー男性は主人公に恋をして借金返済の肩代わりとして主人公を一晩共に過ごすという物語。

 主人公の彼氏はお金を取るか彼女を取るか、主人公は彼氏を取るか彼氏の為に抱かれるかといったコンセプトらしい。


 そんなどろどろの恋愛模様を描いた映画を選ぶなんて……


 私的には機関車トー〇スぐらいでいいのだけど……

 そんな私の想いなど露知らず、二人はさっさとチケットを買い、中に入って行った。

 しぶしぶ後に続く。


 映画は予想とは少し違って面白かった。

 隣で祥子がぼろぼろと泣いているのが見えた。

 そんな祥子をそっと抱き寄せる京輔君がとても素敵で映画よりも京輔君に胸をときめかせている自分が嫌になる。


 映画が終わり映画館を出た。

 祥子が鞄からスマホを取り出し電源を付けた。

「わあ、着信がいっぱいあったみたい」

「誰から?」

「会社から……少し掛けてくるね」

 そう言って急ぎ足で私達から距離を取った。


「映画どうだった?」

 京輔君に聞かれ

「意外と面白かった」

 正直な感想を答えた。

「凄かったよね!『お金で愛は買えますか』か……遥佳ちゃんはどう思う?」

 京輔君は映画のキャッチフレーズを言い感想を求めてきた。

「普通なら無理だと思うけど……あの展開ならあるかも知れない……」

 そう答えると

「俺もそう思うよ」

 八重歯を出しながら笑う。


 どうしよう……京輔君の顔を直視出来ない……

 私はなるべく祥子が行った方向を眺めていた。

 しばらくすると祥子が走って戻ってきた。


「ごめん!今から会社に行かなきゃ!」

「えーそうなの?」

「うん……ちょっと企画書に不備があってね……ごめんだけど後は二人で楽しんで」

 そう言うとそそくさと会社に向かおうとする。


「ちょ、ちょっと待って!」

 祥子を引き留める。

「どうしたの?」

 祥子は不思議そうに聞いた。

「祥子が居ないんじゃ私が居る意味ないじゃん」

「え?せっかくだしご飯でも食べて帰りなよ」

 あっけらかんと言う。


 それは私を信用してそう言ってくれているのだろう。

 いいや、私だけではなく京輔君の事も信用しているから言える言葉だと思った。

 祥子はそういう人間なんだ。昔からずっと。


「京輔、遥佳に奢ってあげてよね」

 京輔君に向かってそう言うと

「遥佳、今度ちゃんと埋め合わせするから」

 そう言って走って行った。

 どうしよう……

 まさか京輔君と二人きりになるなんて思いもしなかった。

 ここは帰るべきだ!


 そう決断した私は

「京輔君」

「何食べに行く?」

「え?」

「え?じゃなくて、何食べる?」

 京輔君は私と二人でご飯を食べる気でいるみたい……

「えっと……今日は解散したほうが……」

「え?何か予定あるの?」

「えっと……特にはないんだけど……」

「じゃあ行こうよ」

 とても爽やかな笑顔で誘われてしまったら私は断ることなんて……

 いや駄目!ここはちゃんと断らないと……

「そうだ、美味しい中華があるんだ。この間、祥子と行ったんだけど、コース料理でね、もうどれも絶品だったよ。そこに行こう」

 京輔君は私の手を掴み言った。


 そのまま断ることも出来ずに京輔君に連れられてお店に入った。

 モダンチャイニーズという種類の中華のお店だった。

 前菜に季節の野菜を一口サイズのパイで包み込んだ料理。

 その後も一品一品丁寧な仕上がりと美味しさでお腹を満足させてくれた。

 その様な料理を口にしているのだ会話が弾まないわけなど無い。

 その後二人でバーに行き飲むことにした。

 京輔君と二人で居るととても幸せで楽しい気分になって行く。

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