造語集

湿原工房

未在

 未在という言葉がない。言葉には意味が伴うからだ。未在というのは私の造語である。未在は、存在でも不在でも非在でもないが、あらかじめ負わされた意味もまたない。遊びで作られた擬語である。擬語はいま思い付きにつくられた造語である。語のフリをしたものくらいの意味だ。

 その反面、未在には内容がある。内容は未在といってみたあとに、その意味となるものを探しているうちに、その行為によって仄かにたってきた。まずは存在や不在や非在といった、類似する組織とは別の内容でなくては、その存在意義のないものとしてたってきた。

 未在を読んでみるなら、「いまだあらず」と読める。未来という語がいずれくるだろう時を、到来以前の地点から展望する語であるなら、同様に未在もいずれくるだろう存在を、到来以前の地点から展望しているものということができるかもしれない。

 しかし、近似する語として想定される未生とは違っていなくてはいけない。生と在はどれほどの違いがあるのだろう。生まれるということはそれは存在がはじまるということなら、生と在を区別することができるだろうか。私にはこのふたつの概念を区別できないでいた。

 そこでひとつの光明が降りてくる。未在という語は、あらかじめ意味が用意されていないのであれば、この語に意味を与えようとする行為、そして既存の語との混同を避けていくうち、ついに語としての地位が与えられないままある語を、未在と呼ぶことができるのではないか。

 この語は極めて自己言及的で、そのため自己完結的でありながら未完を約束された語としてのみあるのではないか。それはつまり語になろうとしてつねに語になりそこねる語。

 未在という造語に意味を与えることが叶わないことによって完成された。

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