第5話 ある日の遅刻マンと私

昨日の入学式が終わり、今日は教科書の配布日。

私、冬野とうのゆきは教室の後ろの廊下側の席に座り小説を読んでいた。


内容は野球選手として天才と言われた主人公が治らないケガしてしまい甲子園という夢の舞台を諦めることとなり、傷ついた主人公は野球をやめてしまう。そんな主人公にヒロインは優しく接し、新しい夢を探す物語。


今の時間は8時25分、チャイムが鳴るまであと5分を切っている。


「おはよう」 


 後ろの廊下のドアを開け、あいさつしながら友永ともながゆうが教室に入って来た。

 優の姿を見たクラスの生徒が薬と笑い、優は恥ずかし象な顔をする。

 私は小説をバックの中にしまい優に話しかけた。


「おはよう……遅刻マン」


「おい、いきなり変なあだ名付けるな」


「そりゃ、クラスで唯一遅刻した人だからね。良かったじゃない有名人になれて」


「そんなんで有名にはなりたくない!」


「なったけどね」


 昨日、優は入学式……中学生活初日だというのにいきなり遅刻をしでかした。それだけだったらよかったんだけど。


「はぁ、いきなり遅刻かぁ」


 友永が顔を抑えてへこんでいた。

 後で聞いた話では野球組4人で遅刻したらしい。何やってんだか……。


「なんで、皆で遅刻したの」


「いやー、10分前ぐらいに下に着いたのに何故か盛り上がってね」


「一と嘉本が?」


「あ……わかる?」


 いつも通りか……。

 私は再び小説をバックから取り出した。


「あんまり遅刻しないでよ。小学生じゃないんだから」


「大丈夫だよ。前みたいに石けりして遅刻とかしないって」


 ……大丈夫かな? まあ、私の責任にならないからいいか。

 優は笑いながら答えて自分の席に座った……隣の席だけど。


 私は小説を再び開いた。

 今は主人公が腕の痛みに気が付きながらも試合の大事な場面を一生懸命に投げているところ。話の流れでこの後の展開はわかってしまうがそれでも本をめくる手が止まらない。


「――き」


 私は小説が好きだ。その時、その場の場面を頭の中で想像するのがとても楽しいから。


「――き!」


 だから私は小説を邪魔されると――。


「雪!」


 そこで優が声をかけてきてることに気が付いた。

 ……ッチ、邪魔された。

 私は小説を閉じて友永優の顔を見る。


「わお、すごい不幸な出来事にあったような顔」


「……なに? 遅刻マン」


「お願い遅刻マンはやめて。で、どうするの部活? 迷ってたじゃん」


 ああ、部活のことか。小学生の頃は野球を4年間やってきて、中学では女子野球は無し。やるとしたらソフトボールか野球部のマネージャーか……帰宅部。


「そうねえ、まだ迷ってるかな。どうしようか」


「じゃあ、マネージャーしたら? 見るの嫌いじゃないでしょ」


「うん、というか好きだし。えーでも朝練がなあ」


「起きられないんだ」


「いや、あんたらが遅刻した時のチェックがめんどくさい」


「大丈夫! 野球の時は遅刻しないから!」


「学校の時も遅刻しないでくれる!」


 一も優も野球の時は遅刻をしたことはないが学校の時は……、登校班のメンバーがよく怒っていたことを覚えてる。

 さすがに中学で遅刻はしないと思うけど……優の家からだと10分で学校に着くし。


 私は「ふう」と一息つくと再び小説を開いた。先ほどの続きを早く読みたい。

 優は机の横にバックを置くと席を立ち廊下に出た。


 ……マネージャーか悪くないかな。 

 そういえば白はどうするんだろう。いや、あの子はソフトボールをやるかな。





~この日の自己紹介~

 名前・冬野とうのゆき

 クラス・1年3組

 出席番号・出席番号10番

 誕生日・12月2日

 身長・154㎝

 好きな食べ物・おでんの大根

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だらだら日常~だらにち~ 悠(ゆうふじ)藤 @yufuzi

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