最終話「家成翔哉の思い出」
5時間目も終わり、帰りのホームルーム。
私たちは、先生から意外な話を聞くことになった。
「知っているものも居るとは思うが、今朝学校で飼育しているニワトリに産まれたひよこが、逃げ出した」
私は思わずショウヤくんを見る。
その横顔は、何か苦いモノでも噛みつぶしたように、しかめられていた。
「でも心配ないぞ。
郡山さんも相川さんも、みんな「わぁっ!」「よかったね!」と喜んでいる。
それでも、ショウヤくんはつまらなそうに外へ顔を向け、頬杖をついていた。
放課後、私はショウヤくんの所へまっすぐ向かう。
私が何か話をするより早く、悲しそうな顔をしたショウヤくんは、黙って私の手を引いて教室を出た。
着いたところは保健室。
ノックをして中へ入ると、養護教諭のあつ子先生が座っていた。
背が高くて、痩せていて、とってもきれいな先生。
「どうしたの? 転んだ?」
あつ子先生は、タイトスカートから覗く足を組み替えて、私たちにむかってにっこりと笑った。
どうしてここに来たのかも分からない私は答えられない。
じっとショウヤくんを待っていると、私の手をつかんでいる彼の手は、少し震えているようだった。
「……お墓に」
「え?」
「お墓に、せめて僕たちだけでも手を合わせようと思ったんです」
あつ子先生はじっと私たちを見る。
それでも「何のお墓?」なんて言う質問はせずに、ゆっくりと立ち上がった。
「どうしてわかったの?」
「……僕も、ひよこを死なせてしまったことがあるので」
「そう。ごめんなさいね。先生も間に合わなかったの」
「いえ……」
あつ子先生に連れられて、私たちは校舎裏の小さなお墓に向かった。
その間ずっと、ショウヤくんの手は私の手を握っている。
手を合わせるときになって初めて、ショウヤくんはずっと手を握っていたことに気づいたようだった。
気まずそうに手を離し、小さなお墓に手を合わせる。
立ち上がったショウヤくんは、今まで見たことの無いふてくされたような顔をしていた。
そのままくるりと背を向け、歩き出す。
私はあつ子先生に頭を下げると、ショウヤくんを追いかけた。
やっぱり、何も言わないショウヤくんはまっすぐに歩く。
私はショウヤくんの手を後ろから握り、びっくりして振り返ったショウヤくんに笑いかけると、一緒に並んで歩いた。
――終わり
ピヨちゃん失踪事件 寝る犬 @neru-inu
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