第十五話

「sin45°は…」

先生の授業を軽く流しながら、窓の外をみる。早速体育祭の練習をしている生徒を見つけて考えていることを聞いてみる。

『面倒いな…授業早く終われ…』

『暑い…』

『先生はやらないくせに。人には偉そうに!』

だいぶ遠くの人でも聞こえるようになった。それにしても、消極的な人が多いな。ーまあわたしも似たようなことを思ってるけど。

「おいっ!莉子、聞いてるか!?」

ぼうっとしていたら、思いっきり机を叩かれた。

「は、はい!」

「じゃあ、sin45°は何か言ってみろ。」

Sin45°なんて、考えるのもめんどくさい。

「…√2とか?」

はぁ、と先生がため息をつく。

「sin45°が1より大きくなるわけないだろう!」

…めんどくさいな。

『授業を全く聞いてなかったんだなっ!』

都合よく、思っていることが分かったので、ちょっと話しかけてみることにした。

『でも、√2分の1と、√2を間違えただけなのかもしれない。√3って答えるよりはましだよ。』

不思議なことに、sin45°とだけ思ったのが、√2分の1に翻訳された。

「…まあいい。次からはちゃんと聞けよ。」

先生は諦めたように去って行った。ーまあ、真面目に聞く気は無いけど。

『…莉子、莉子!聞こえてる?」

維吹の声…いや、思っていることが聞こえてきて、維吹に返事を送る。

『どうした?』

『莉子?』

『うん。』

『いま、紋様を使った?』

『そうだけど…。』

『手が光ってる!隠したほうがいい。』

え、と手を見ると、たしかに紋様が光っていた。

「莉子。手、どうしたの?」

焦って隠そうとした瞬間、後ろの席の委員長が声をかけてきた。

「光ってる。どういうこと?」

委員長が言って、クラス全員がこっちを向いた。

「ほんとだ…光ってる…」

「なんで…?」

教室がざわめき始める。

「本条さん、説明して欲しいんだけど。」

委員長が黒髪をかき上げながら言った。

「最近本条さんは変だよね?なにがあったの?」

委員長の声に合わせて、わたしに説明を求める声が上がる。しかも先生もいっしょになって。

「何かのしるしみたい…蛍光とかいうレベルじゃな!」

「金色の光って…普通ないよね?なにが…」

呟くような声が、教室にさざ波のように充満した。

『莉子…言って!』

『この際、言った方が納得してくれる!』

維吹とユネラクルからテレパシーのようなメッセージを読み取った。

「本条さん?」

委員長のまっすぐな瞳に見据えられて、覚悟を決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

〜特殊能力描き主〜 翡翠 @7hisui7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ