第2話 だからこそ、僕はここでは終わらない

見ると父親はポケットから携帯を取り出し3回ほどボタンを押している。おそらく1.1.0.だろう。おいおい、息子の顔を見て通報?思い当たる節がドッキリしか無い。父さん?何してるの?

「何が父さんだふざけるな!!ウチには息子と娘が一人ずついるだけだ!!」


僕の思考回路が停止する。悪ふざけにも程がある。······だったら二階の僕の部屋はどう説明する!?


「二階?まさか、あれもお前の仕業か!?」仕業?

「ウチの二階に全く知らないものが散らかっているから通報したが、お前か」


二人の後ろから弟と妹が顔を出す。が、二人とも······案の定というべきか僕の事を分かっていない。理解していない。


逃げ出した。無我夢中に、一心不乱に、他のことに目もくれず、ただひたすらに走って逃げる。


現実が認められない。認めてたまるか、認めるどころか全く理解が出来ない。

ただ1つ。


“もう、だれも僕を知らない。味方がいない”


確信したところで脳裏を今までの出来事が駆け巡る。幼い頃、自転車の後ろを押してもらった。ランドセルを買ってもらった。参観日にも来てくれた。

これまでの、今日までの成長には家族がずっと側にいた。

そう思うと、心の底から涙が溢れる。人生そのものに腹が立ち、悔しくて悔しくてたまらない。『家族がいない』それがとても辛かった。

······だからこそ、僕はここでは終わらない。惨めに足掻いて、それでも駄目なら諦める。でもそれは今じゃない。それは僕が一番理解っているッ!!


気付けば遠くに来ている。それをそのままUターン、自宅に向かって走り出す。

どれだけ疲れていようが関係ない。もはやどうだっていい。


僕は、僕の家族を


自宅の前まで着いた僕は、走りながら考えていた作戦をもう一度頭の中で繰り返す。

家へ飛び込み、自分の部屋に入る。自分の写真を見せればなんとか説得する余地ある。よし、行こう!!僕は静かに鍵を開け、勢いよく駆け込んだ。


パーン。


乾いた音が鳴る。と同時に。「ハッピーバースデー!誕生日おめでとう!」

誕生日······サプライズか。これはサプライズだ。ハハッハハハハハハハハハハハ笑いながら涙がこぼれる。

やり過ぎだっての、本当に怖かったんだからな。


僕は、18歳の誕生日に改めて家族の大切さに気付いた。







それから4年後、一家行方不明事件が起きた。唯一、居場所が分かっていたのは、一家の次男だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だれも僕を知らない 蘇来 斗武 @TOM0225

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ