だれも僕を知らない
蘇来 斗武
第1話 僕の思考回路が停止した
声が聞こえる。声?鳴き声······さえずりか。目を開けると窓からは朝の光が差し込み、外から鳥のさえずりが聞こえる。
眩しい光から目を背け、鳥のさえずりから意識をそらすように寝返りをうつと、額に大きな衝撃が走る。痛い。僕は落ちたのか、ベッドから。僕だっていつもこんな風に目覚めを迎えるわけではないが、アニメや映画、ドラマのように目が覚めてすぐ起き上がり背伸びをする。という理想的な目覚めを迎える人がいったい世の中に何人いるのだろう。
僕の理想は限界まで寝てダラダラ起きることだが。
とはいえ僕はたった今目覚めた。最近枕が合っていないのか朝起きると痛い首を左右に曲げるついで、時計を見て時刻を確認する。十時。部屋を出てリビングへ行き、朝ごはんを食べる。トーストにいちごジャム、普通に食べてから部屋に戻る。今日は休日だが、とある予定があるため洋服に着替える。ちなみに僕の家族はいない。いや違う、家にいないってだけで別居も死別もしていない。つーか、高校生で一人暮らしって少ないと思う。
現在僕はこの家に5人で住んでいる。父と母、弟と妹が一人ずつ。おそらくは僕が寝ていたため待てずに4人で出かけたのだろう。しかし、いつもはある書き置きやLINEはない。なぜだ?まあいいか。
そして僕の“予定”というのも大したものではない。僕のような陰キャの暇を埋めるのは読書だった。しかし休み時間をほぼ共に過ごす本が一冊なのは無理がある。そして学校の図書館には、はっきり言って好みの本がない。よって今日の僕の予定は、書店に行くことである。
玄関に行くと、いつもはある僕の靴がない。家族の靴の場所は大体決まっている。僕は右端だ。しかしそこには何もない。ふと思い立って横にある棚を開くと──あった。僕の靴だ。なぜこんな所に?やはり今日はいつもと少し違う違和感。
少し気味が悪くなり、足早に家を出る。家から書店は多少の距離があるがあいにく僕は自転車を持っていない。小学校、中学校と徒歩、現在通っている高校は、
電車を使うが駅まで数分だからどちらにせよ徒歩だ。
それから僕は小説を3冊買い、来たときと同じ道を帰った。
その時のことだった。僕はいつも通り自宅の鍵を開け家に入る。と、基本的にいつも聞こえてくるのは家族だれかの「おかえり」だったが、今日だけは違う。
言葉ではなく悲鳴だ。僕はただ怖かった。自分の母親の悲鳴が瞬間的に自分をここまで追い詰めたことが──その原因になったものが。
母さん!!となりの部屋から悲鳴を聞いた父親が出てくる。母さんは口をパクパクさせながらこちらを見ている。それに釣られて父さんこちらを見る。再び僕は恐怖を感じる。両親の視線の先僕の背後には何がいる?
ゆっくりと恐る恐る振り返る。右目から左目へ、順番に視線が背後に向く。
そこには、そこにいたのは──否、そこには何もいなかった。気付く。僕は両親のほうへ向き直る。そして二人と目が合う。二人とも?何を驚いているの?
びっくりしたよ。
母親は震えてまともに会話が出来るようには見えない。故に父親に目を向けるとそれを察したのか、重たい口を開く。
「だれだ!!今すぐ出て行け!!」
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