新NEW俺

夢生い人

終わりと始まり

『別れて』

『ってか、別れる。』


 朝起きると、携帯の画面にそんな非日常な文字が写っていた。


紗南からだ。


 一体俺が何をした。何が原因だ。


 まだ目が重力に逆らえないまま、いつものように腹を膨らませ、着替えを済まして、高校は行く。


 一応、いつものように彼女を迎えに行ってみる。


 でも、いつまで経っても出てこない。

 10分経った。インターホンを何回押したか覚えて居ない。


 仕方なく行く事にした。絶望に染まった心は足取りと呼吸を重くした。


 久しぶりの一人だ。何にかはわからないが、震えが止まらない。心が縛られ、震えている。誰か助けてくれないものか。


 学校に着いた頃、彼女からメールが届いた。別れた理由についてだ。読んだところ、監視されているようで息苦しかったり、俺がわがままを走らせ、家の前で抱き寄せたりするのが嫌だったらしい。言いたい事は蟻の数ほどあるが、もう話はしたくないようだ。


『もう好きになれない。だからわかれ』


 それが最後であった。


 学校では抑えたが、家に帰れば目頭が熱くなるどころではない。川が2つ流れ始めた。川と言うが、激流だ。


 もうメールが来る事はない。一緒に笑い合うことも一生に無いのだ。


 ここまで来て初めて、別れを認めた。


 胃が痛い。頭が重い。心が悲鳴を上げている。耐えかねて、昼寝をする事にした。


『朔くん…で良いのかな?』

『私は…誰かは言わないけど! とにかくね? 朔くんは今、変わる時なの! 今までの悪い所を全部直して、紗南とまた付き合うんだよ!』


 明晰夢を見る事が出来る俺はここで意識を持った。


 誰かは知らないが、また付き合う…か。


『誰かは聞かないけど、無理そうだよ。紗南を追い詰めちゃったのは俺だし、あそこまで言われたらもう一度なんて出来ないよ。』


 諦めるしかないのだ。辛いこの現実を耐えるしか出来ないのだ。


『はぁ… 朔くんは紗南ちゃんの事好きなんでしょ?』


『そりゃ、大好きだよ。でも紗南は俺の事が嫌いなんだよ。』


『紗南がどう思ってるかなんて関係ないよ。朔くんは大好きなんでしょ? なら逃げないで! 一度は好き同士付き合ったんじゃん! 何か取り戻せば、何か直せばまた付き合えるんだよ!』


『あんたは何でそんなに俺と紗南をくっつけたいんだ?』


『それは! …紗南は朔くんに任せたいから…』

『紗南はモテるから、作ろうと思えば、男なんてたくさんできるよ。でも、私は…朔くんと居てほしい。』


『…なんで俺なんだよ。』


『私は、紗南に幸せになって欲しいから…』

『私は、朔くんならきっと紗南のために、変わってくれるって信じてるから。私が助けてあげれば、紗南も…朔くんだって幸せにしてあげられる…』


 いつもなら、こんな変なこと言う人にかける言葉は決まっている。


 でも、少し心が動かされたのか、…紗南を幸せにしたいって気持ちなのか…


『紗南を幸せに…俺が…一緒に…』


 今の俺にこれ以上ピッタリな夢があったか。この夢が運命だって思えるくらい。そう信じたくなるくらいに、やっと見えた希望だった。


『やりたい。変わってやる。絶対に幸せになってみせる。紗南と幸せを掴み取ってみせる。』


『…そう言ってくれるって信じてた。ありがとう…』


 こちらこそと言いたかった。でも、何故か意識が消えてしまった。


『朔くん…私は信じてる…! 紗南と幸せになるその瞬間を…!!』


 19時半。寝すぎた。お腹減った。


 あれはなんだったのかな。でも、お陰で目が覚めた気がする。


 紗南ためになら、どんなことも頑張れる気がしてならない。絶望一色だった3時間前から見違えるほど見える世界が変わっていた。


 やってやる。今に見ていろ!


 大好きなあの人の為に。


『新しくてNEWな俺になるぞ!!』


誰もいない暗い部屋で少し大きな声で言った。


 …新しくてにゅーってなんだ。少し興奮してておかしいかもしれない。


 でもそんなものでいい。俺は絶対に負けないのだから。幸せを掴む為に。


 続く



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