付記 two remarks from the cell

 —— セルからのコメント 1 ——


 セルには、それが機能するために必要な全要素が内包されている。サイズを問わず、一つ一つが完成されたパッケージなのだ。必要な器官オルガネラとして、内部に意思と記憶が格納されているとしたら。全てのセルに、独立した人格パーソナリティが存在することになる。


 荒唐無稽だと笑うかい? もし私たちがそのセルであった場合、笑い事では済まされないんだが。

 そして。私たちはすでにセルなんだよ。誰もが七十五億分の一のセルなんだ。事実としてね。



 —— セルからのコメント 2 ——


 HeLaヒーラ細胞というヒトの培養細胞がある。数十年前に、ヘンリエッタ・ラックスという女性の癌組織から分離され、培養の容易な不死細胞として各種の生理学実験に広く用いられるようになった。後に女性の遺族がヘンリエッタ本人の同意なく細胞を濫用したとして訴訟を起こしたが、細胞は材料マテリアルに過ぎないと断じられて敗訴した。


 しかし。もしそのセルに、提供者であるヘンリエッタ・ラックスの意思や記憶が備わっていたとしたら。私たちはそれらの存在を無視出来るのだろうか? そして、彼女のセルは。


 ……果たして単なる『材料』なのだろうか? 



【 了 】

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セル 水円 岳 @mizomer

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