第6話 株式情報の無料券【4765】

 本気で買おうと思っていたのに、買わないでいた株が急騰していた。

 思い切って買っていれば儲けることができたのに。


「なんで買わなかったんだー!」


 と、独り言を叫んだ時、ギィギィという音が聞こえてきた。

 スマートに開かれるちかけた引き戸。


「桜井さん、ご存じですか?」


 笑顔の少女がぼくに向かって疑問符を投げかける。

 しかしそれはあまりにも唐突。

 ぼくは聞き返した。


「ご存じというと、何でしょうか?」


「モーニング星。という会社です。ご存じですか?」


「いやー、わからないです」


「株などに関する情報を、サイトやアプリを使って提供している会社です。ここの優待は、その有料サイトの無料クーポンなんですよ」


「株の有料情報を無料で!それはいいですね!」


「株を熱心に勉強中の桜井さんには良いんじゃないかと思いまして」


「興味あります!」


「ひと月4000円ほどかかる閲覧料が、持ち株数に応じて無料になるんです」


「4000円ですか!」


【株式サイト無料クーポン 年1回】

 100株以上  3ヶ月分

 400株以上  6ヶ月分

 700株以上  9ヶ月分

 1000株以上 12ヶ月分


「ひと月4000円ってことは、100株だけでも12000円分じゃないですか!」


「そういうことになります。特筆すべきは、買いやすい株価だと言うことです。最近は400円前後を行ったり来たりしています。つまり4万円の投資でこの優待を受けられることになります」


「ほかに比べて少ない額で手に入るんですね!」


「しかもこの会社は配当利回りも悪くないですから」


「配当ももらって、12000円分みっちりサイトを使ったら、相当得るものがありそうですね!」


「それはその人次第です」


「よし、権利日までに手に入れます!」




――――― 権利付き最終日 ―――――


「雪乃さん!モーニング星。ですが、399円で約定です!」


「桜井さん、完全優待生活に向けてもっともっと株の勉強をつづけてくださいね!」


「もちろんです!」




――――― 3ヶ月後 ―――――


「雪乃さん!優待が届きました!無料クーポンのコードが封筒に入ってました!」


「おめでとうございます!」


「でもそれだけじゃないんです。謎のサプリの引換券とその割引券が入ってたんです。これなんですが――」


「ええ、それを送れば活力サプリがもらえます」


「なんです、それ?」


「モーニング星。の親会社が作っているサプリメントです」


「え、じゃあ優待は無料クーポンだけじゃないんですね?」


「その通りです」


【サプリメント引換券1枚】

【サプリメント50%割引券1枚】

 100株以上 


「どういったサプリか謎ですけど、なんかお得感がありますね!」


「ですよね!」


「引換券を郵送すればいいんですよね? 送ってみます!」




――――― 1ヶ月後 ―――――


「雪乃さん!申し込んどいたサプリメントが届きました!」


「おめでとうございます」


「なんか思ったより小さいですね」


「それ3000円近くするらしいですよ」


「え、3000円? これが?」


「3000円です」


「えー、これそんなにしますか!?」


 と言い終わるか終わらないかのうちに、雪乃さんが目を見開いてぼくを見た。


「いけません!桜井さん、それ以上はいけません!」


「…」


「会社の言う金額は絶対です。どんな時でも会社の言うことを信じてその優待を楽しむ。それこそが粋な優待生活者のたしなみです。その方が幸せになれます。お互いハッピーなんです!」


 雪乃さんの目ヂカラに押されてぼくは納得した。


「…たしかに、3000円だと思った方が断然ありがた味がありますね!」


「ですよね!」


「お得感ありますし!」


「ですよね!」


「なんか活力出てきました!」


「ですよね!」


 さすが雪乃さん。

 優待を楽しむ。

 そのことを忘れてはならないのだ。

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雪乃さんとぼくの株主優待生活 オレカタ! @orekata

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