予知はできない、でも速報なら

 先日の深夜、千葉で地震がありました。首都圏に住む人の多くは、スマートフォンの緊急地震速報で驚いたのではないでしょうか。私も、叩き起こされた口です。


 震源地から遠い人ほど、実際の揺れは警報から遅れてやってきたはずです。これは、地震の警戒警報が、地震の際に起きる地震波の特性を利用しているからです。以前「震動で中身を調べる」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054885557884/episodes/1177354054887742324)でも書きましたが、地震が起きる地震はには、P波とS波があります。

 P波は“最初のPrimary”、S波は“二番目のSecondary”を意味します。余談ですが、「秒」を英語で「セコンドsecond」というのも“二番目の”(時間区分)という意味から来ています。


 さて、地震発生後、まずP波が伝播します。P波は縦波なので、伝播速度が速いのです。地面を切って横から見ると、正弦波のような波が地面を伝わっていくイメージです。一方、S波は横波、横から見ると密な部分と粗な部分が交互に進んで行くイメージで、伝播速度は遅くなります。その代わり、S波はP波に比べるとエネルギーが大きい=揺れが激しいのです。

 P波の伝播速度は秒速約七キロ、S波の伝播速度は秒速約四キロ。震源地から遠くなればなるほど、到達するまでの間隔は長くなります。緊急地震速報は、P波を検知し警報を出すので、S波が到達する(本格的に揺れる)前に知らせることができるのです。


 同じようにP波を検知するシステムとして、国鉄鉄道技術研究所が開発した「ユレダス」があります。ユレダスは、P波を検知すると運行中の列車を緊急停車させます。これによって、地震による鉄道事故を防ぎます。



 地震の速報ができるなら、地震の予知もできるんじゃないのかと思う人がいるかも知れません。科学的な地震予知の歴史は、明治時代まで遡ることができます。日本に教師として招かれたジョン・ミルンが作った地震学会が、地震の予知を目指していました。火山の少ないイギリスから来たミルンにとって、地震の頻発する日本はとても変わった土地に思えたでしょうね。日本にいるとあまり意識しませんが、地球上には地震のない場所も多く、一生のうちで地震を体感しない人も多くいるのです。ですから異世界もので地震の描写があるとき、みんな日本人みたいな反応しかしないのは、少し違和感を感じてしまいますね。ヨーロッパ風な世界だと特に。


 それはさておき。地震を予知するための研究は、明治の頃からいろいろと行われてきました。調べるとおもしろいですよ。特に関東大震災にまつわる大森房吉と今村明恒の話なんかは。

 民間に伝わる地震の前触れといわれるもの、たとえば「地震雲が出たら地震が起きる」というのも、地震雲と呼ばれるような雲の出現は、珍しいというものでもないので、たまたま地震発生に重なったのかも知れません。「動物が騒いだ」というのも、振り返ってみたら動物が騒いでいたような気がするといった程度のことで、こうしたいわゆる「地震の前触れ」みたいなものはデータが不正確だったり再現性がなかったりします。

 過去のデータから推測される「周期説」も、必ず当たるというものではありません。そもそも地質学的な時間の感覚って、数十年~数百年単位ですからね。誤差が大きすぎるのです。まぁ、先人たちがいろいろと試行錯誤してきても、地震の予知はできません。せいぜい「今後、X年間の間に地震が起きる可能性がY%」という程度です。

 地震がいつ発生するか、という予知に力を注ぐのではなく、いつ地震が起きても対処できるような体制をつくり、すばやく復興できる技術を構築することが大切でしょう。


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