重力波望遠鏡「KAGRA」が観測を開始

 2020年2月25日、岐阜県飛騨市神岡町にある大型低温重力波望遠鏡Large Cryogenic Gravitational Telescope、通称「KAGRA」の計測が開始されました。望遠鏡と名前がついていますが、いわゆる普通の(光学)望遠鏡とは異なり重力波を検知する、と言った方が良いかもしれません。


・重力波とは


 そもそも重力波とはどんなものなのでしょう?

 アインシュタインの一般相対性理論では、質量によって時空が歪むとされており、実際、巨大な質量による重力レンズ現象などが観測されています。宇宙空間を平らなテーブル、例えばビリヤード台のようなものと想像してください。そして、その台がゴムのような伸縮性のある柔らかいものでできているとします。そこにピンポン玉のような軽いものを乗せても(台の柔らかさにもよりますが)沈みません。しかし、鉄球を置くと台が凹んで沈み込みます。鉄球の重さによって沈み込んだのが“時空(重力場)”です。では、沈み込んでいる部分にピンポン玉を置いてみましょう。ピンポン玉は、沈み込んでいる台に沿って、鉄球の方へと落ちていきます。これが“重力”ということになります。フィクションでは、沈み込みによる凹みを重力井戸などと表現しますね。


 さて、巨大な質量によってゆがめられている時空ですが、質量が静止状態あるいは軸回転している場合には、そのゆがみは安定していてそのままの状態を維持します。では、そこに別の鉄球(巨大質量)が近づいたらどうなるでしょう? 宇宙ではぶつかって合体するか、お互いの周りを周る連星になります。すると、安定していたゆがみが変動し、波のように周囲に伝播していきます。これが“重力波”です。例えば、ブラックホールや中性子星がぶつかる際に、重力波が発生すると考えられています。


・重力波を検知するには


 重力波は、すばる望遠鏡やALMAのような電磁波を観測する装置では検出できません。現在主流となっている方式は、冒頭に挙げたKAGRAでも使われているレーザー光を利用した干渉計型検出法です。

 この方法では、レーザー発振器からの光をビームスプリッターで直交する二方向に分けます。それぞれのレーザー光は、進路の先に配置された鏡によって反射します。その光は再びスプリッターによって、今度は検出器に送られます。重力波がレーザー光を通過すると、時空が歪むことで距離が長くなり、それに伴い戻ってくるまでの時間も長くなります。すると、検知器の内部でレーザー光の干渉による縞模様(干渉縞)が変化するので、重力波があったことが分かるというしくみです。重力波によって歪む時空といっても、ほんのわずかです。わずかな変化でも検知するためには、レーザー光の長さを長くしてやる必要があります。KAGRAの場合、長さ三キロメートルの間を約五百回往復させています。


 SFアニメなどでは「重力波の変動を検知!」なんてシーンを見かけますが、そう簡単に重力波は発生しませんし、検知するためには(現状)大きな施設も必要なので、リアリティはないですね。いや、リアリティを求めてはいけないのか。


・重力波天文学


 重力波望遠鏡など、重力波によって新しい宇宙の姿を明らかにする学問を重力波天文学といいます。光学観測に比べると、まだ始まったばかりの学術分野と言えるでしょう。

 KAGRA以外にも重力波望遠鏡はあります。アメリカの「LIGOライゴ」は、長さ四キロメートル。ワシントン州とルイジアナ州にあります。2015年から感度を向上させadvanced LIGO(aLIGO)として可動しています。また、ヨーロッパにも「Virgoヴァーゴ」という重力波望遠鏡があり、KAGRAはこうした重力波望遠鏡の世界的ネットワークに参加して、観測を進めて行きます。

 さらに、現在宇宙空間で重力波の検知を行う「DECIGO」計画も進行中です。


※書くだけ書いて、アップするのをすっかり忘れていました。

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