スーパーローテーションの謎
金星は、不思議な星です。地球に近い公転軌道を持ち、大きさも平均密度も似ていることから、地球の双子星、兄弟・姉妹星などとも呼ばれますが、その一方で地球とは違い自転軸が逆転している(つまりひっくり返っている)、表面が厚い雲に覆われているなど謎が多い
自転軸がひっくり返っている金星は、地球とは逆に自転しています。西から昇った太陽が、東へ沈むのです! しかも自転周期は約243日(一日の長さは、117日)と、非常に遅い。にも関わらず、スーパーローテーションと呼ばれる金星大気の動きは、西向きに凄まじい速さで移動しています。高度が高くなるほど流れの速度は速くなり、高度50~70キロメートルの領域では、大気がおよそ4日間で金星を一周します。自転速度の、およそ60倍です。
なぜ、そんなにも強い流れがあるのかについて、これまでにも「パイオニア・ビーナス・オービター」や「ビーナス・エクスプレス」といった探査機が送り込まれました。日本でも2010年に金星探査機「あかつき」を打ち上げました。同じH-IIAロケットにソーラー電力セイル実証機「IKAROS」も搭載されており、こちらは大成功だったのですが……「あかつき」は金星の軌道投入(VOI:Venus Orbit Insertion)に失敗してしまいます。本来であれば、「ビーナス・エクスプレス」との同時観測が予定されていました。
しかし、2015年に再挑戦した軌道への再投入(VOI-R1)に成功、観測を開始しました。研究者やエンジニアの努力と熱意には、本当に頭が下がります。日本のみならず、宇宙関連の科学者・技術者の方々は、ある意味諦めが悪い人が多い気がします。
そして今回、「あかつき」の観測データから北海道大学やJAXA(ISAS)などの研究チームが、金星でスーパーローテーションが維持されているメカニズムを解明したと発表がありました。論文は、科学誌「サイエンス」の電子版に掲載されています。
How waves and turbulence maintain the super-rotation of Venus’ atmosphere
https://science.sciencemag.org/content/368/6489/405
この研究によると、スーパーローテーションを維持する要因は「熱潮汐波」なのだそうです。前回「月は少しずつ遠ざかっている」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054885557884/episodes/1177354054895563326)で解説した潮汐力は、天体の引力によるものでしたが、熱潮汐は太陽による加熱によって大気が変動することを指しています。
金星では、西向きの強い流れの他に、鉛直方向(赤道←→極)の流れもあり、赤道付近で温められた大気が熱と角運動量を緯度の高い地域へ運ぶ役割を持っています。極で冷やされた大気は高度を下げて再び赤道へと向かう循環をしているのですが、子午面循環と呼ばれるこの動きは、スーパーローテーションを弱める方向に働きます。これに対して、熱潮汐による波が低緯度に向けて角運動量を運ぶことでスーパーローテーションを維持しているのです。
近年では、スーパーコンピューターによる予測や人工衛星による精密な観測などによって天気予報の確度も上がってきましたが、それでも明日の天気を予測することはとても難しいことです。ましてや離れた場所にある金星の大気を観測し、そのメカニズムを解明することは困難です。今回の研究は、その一部を解明したに過ぎません。
金星の大気は、温室効果によってもたらされたものと考えられており、温暖化が進んだ地球の姿とも言えます。金星の大気メカニズムを解明することが、もしかしたら地球温暖化を防ぐヒントになるかも知れませんね。
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