電動航空機が都市上空を飛ぶ日

 前回のエピソードで出てきた「電動航空機」について、ちゃんと書いてなかったなぁと思い、改めて解説したいと思います。


 電動航空機(Electric aircraft)とは、読んで字のごとく「電気で動く航空機」のこと。無動力のグライダーとも違いますし、ジェット燃料で飛ぶジェット機とも違います。イメージで言うと、プロペラ機のエンジンをモーターに置き換えた飛行機ですね。“電動ジェット”なんてものもありますが、ここでは割愛します。


 エンジンをモーターに置き換えるというアイディアは、昔から世界各国で試験が行われています。日本だとJAXAのFEATERが2014~15年ですね。ボーイング社とかエアバス社とかも、独自に電動航空機の試験を行っています。やっぱり、Li-ion電池の登場が大きいですね。それまで停滞していた電動航空機の研究が、一気に加速している印象を受けます。


 拙作「異界調整官(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891272518)」にも電動航空機を登場させていますが、これは決して夢物語ではなく、近い将来現実となる技術なのです。


 FEATHERは既存の小型機を改造し、エンジンをモーターに置き換えたものです。このように、電気だけでモーターを回す方式を「Pure-Electronic」と呼びます。それに対し、電源として(ジェット)エンジンを使う方式を「ハイブリッド」と呼びます。車のハイブリッドと同じです。

 ハイブリッドタイプでは、ジェットエンジンを発電機として利用し、発電した電気でモーターを回します。あるいは、ジェットエンジンでファンを回しつつ、発電した電気を溜めてモーターを回すという方法など、ハイブリッドにはいくつかの方法が考えられています。旅客を乗せる中型機以上のクラスであれば、Pure-Electronic方式よりもハイブリッド方式の方が、早く実用化されると思います。ハイブリッド方式の場合、「電動航空機」よりも「航空機の電動化」と呼ぶ方が、しっくりきますね。



 電動航空機のしくみや課題などについては、もっと書くことがありますが、それよりも大事な「なぜ電動航空機が必要なのか」ということを書いておかなければなりません。


 電動航空機が必要な一番大きな理由は、やはり温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない、あるいは排出しないという点です。ジェットエンジンの燃費を向上させることで、CO2を削減する試みは続けられていますが、それだけではICAOが掲げている目標をクリアすることは不可能です。既存の技術よりもCO2や窒素酸化物(NOx)の排出が少ないバイオ燃料技術か、電動化技術がどうしても必要になります。

 意外な理由としては、エンジンの大きさが挙げられます。燃費向上のためには、ジェットエンジンのバイパス比を高くすれば良く、そのためにはファンの径を大きくするという方法が取られます。ファンが大きくなれば、当然エンジンの最大外径も大きくなりますが、今のエンジンは大抵主翼の下についています。。少し傾いたらエンジンが地面に接触する、なんて構造は許されません。つまり無制限に大きくすることはできないわけです。では、どうするか。大口径エンジンと同じ推力を、多数の小口径エンジン(ファン)で生み出せばいいのです。

 ジェットエンジンであれば、重くなってしまいますが、モーターでファンを駆動する電動航空機であればそれが可能で、しかも自由に配置できます。JAXAやNASAの想像図を見てみると、ファンは機体後方上部に並べて配置されています。


 航空業界から見ると、こうした理由で電動航空機、航空機の電動化が望まれているのです。わざわざ「航空業界」と書いたのは、電動航空機に関して別の業種からもアプローチがあるからです。そう、いわゆる「空飛ぶクルマ」です。

 というわけで、次回に続く──。

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