第10話 聡の学生生活
「聡、最近、学校はどう? ……楽しい?」
守屋家の朝食の場面で、聡の母親がやや遠慮しながら尋ねてきた。
そんなに心配しなくてもいいのに、と聡は少し辟易しながら、食事の手を止めた。
「まあまあ、かな。今は部活が結構楽しいよ」
聡の回答に母親は安心したようで顔をほころばせた。その後は適当な雑談を挟みつつ、聡と母親は朝食を摂った。
父親はすでに仕事のため家を出ていて、今頃は満員電車の中にいるはずだ。
聡も身支度を整えると、母親に声をかけてから家を出た。
バス停まで歩いて向かう途中、近所の──聡の母校でもある──中学校の制服姿の学生たちとすれ違った。始業まではまだ時間があるから、部活の朝練に出るのだろう。
「……はぁ」
中学の制服を見たことで、自然と溜め息が出てしまう。
苦い記憶がよみがえった。
*
きっかけが何だったのかは分からない。そもそもきっかけなど無かったのかもしれない。
クラス替えを機に、親しい友人ができずにいた聡は一人でいることが多かった。だから、ターゲットとして目を付けられたのだろうか。
とにかく、気が付いた時にはクラスの中で孤立していた。中学二年の初夏の事だ。
用事があってクラスメイトに話しかけても、男子にも女子にも見事に無視される。まるで、聡の声など聞こえていない、というかのように視線すら向けない。
戸惑う聡を他のクラスメイトがクスクス笑って嘲笑した。人をあざ笑うことを楽しむ、嫌な視線をひしひしと感じた。
そんなことが何回も続いて、聡は自分の教室に寄り付かなくなった。授業は受けるが、休み時間になるとすぐに席を立ち、大抵は屋上で過ごした。
教室に戻ると机やノートに落書きがされていたが、いちいち反応するのも馬鹿らしくなっていた。なんて、幼稚なんだろう。もはや呆れていた。
二、三度、担任の女性教師に相談をした。しかしその中年の教師は
「え……。それは守屋くんの気のせいじゃないかしら……?」
と、いじめという事実を隠したいのがみえみえだった。
この人はあてにならない。それ以降、担任教師に頼ることはなかった。
聡に対するいじめは、中学三年に進級した後も続く。運が悪かったことに、クラス担任はまたあの中年女性だった。
結局、聡は卒業までの約二年間、ただひたすら耐え続けることになったのだ。
当時、両親にはいじめの事実は伝えていたが、大事にしたくない、という聡の意思を
*
バスに揺られ、混雑する電車に揺られ、片道二時間ほどかけて、聡は高校へ向かう。
二年間、中学でのいじめに耐えたことから、聡には我慢癖のような忍耐力がついていた。通学が大変でも、家族や友人に愚痴をこぼすようなことはしない。
高校の正門をくぐって、教室に入り、自分の席に着くと淡々と学生鞄からノートや教科書を取り出して机にしまう。
席の近い友人達が朝の挨拶をして声をかけてきてくれたので、そのまま数人で雑談が始まった。
高校では気さくなクラスメイトに恵まれたこともあり、親しい友人も何人かいて、教室で孤立する事はない。担任教師も面倒見の良い男性教諭で、困ったことがあるとその都度親身に話を聞いてくれた。
平穏な高校生活は、なかなかに楽しいものだった。
それなのに。
なぜだろうと聡自身考える。
中学生のころから抱いていた死への憧れは、なぜか今でも消えていない。
死にぞこない部の活動記録 うたた寝シキカ @shimotsuki
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