【短編】宇宙刑事デューネ

MrR

私は地球の宇宙刑事

 光海(こうかい)学園。


 築十年も経っておらず、今では人気校の一つとして数えられている。


 特にスポーツ分野に力を注ぎ、体育会系の学舎として全国にその名を轟かせていた。


 飛び込み台もあるこの屋内プールもそうした学校の方向性を物語っていた。


 日が落ち、ガラス張りの天井からはまるでプラネタリウムのように星空が輝き、真下にある水面を星柄の絨毯に変えていた。


 泳いでいる生徒は唯一人だけ――この童話の世界を映し出したような情景は貸し切り状態になっている。


(環境汚染が進んだ星でも空は綺麗な物だな)


 プールで背泳ぎしつつ、少女は感慨深く思った。


 青い短髪を水泳キャップで覆い、透通るような青い瞳は天井のガラス窓は何か思い詰めた様にじっと眺めている。


 競泳水着越しから見える少女のボディラインはオリンピック出場経験を持つ水泳選手の様に鍛え抜かれた物だった。


 例外を挙げるとすれば胸部の大きな二つの果実…即ち年不相応の胸。サイズは高校一年にして95のIカップ。 充分巨乳部類に入る大きさの胸は背泳ぎするとまるで双子島のようにプカプカと浮かび上がっている。


 名前はデューネ・マリセイド。


『表向き』は外国人留学生と言う事で通っている。


(さて…そろそろ出るか)


 貸し切りだったプールから上がろうとしたその時だった。


「――ッ!?」


 左腕に巻き付けてあった青いデジタル時計が鳴り響く。


 このアラームを聞いた少女は顔を顰めながらもじっと腕時計を見詰める。


(コールだと!? まさか本当にこんな辺境の星に!!??)


 そう考えに至るとすぐさまプールから出る。


 水泳キャップを脱ぎ去り、競泳水着のまま外を目指した。


 屋内プール場から外に出た途端デューネは、駆け抜けながら一言呟いた。


「蒸射!!」


 腕時計が眩い光を放ち、瞬きする程の一瞬の時間の間に彼女の姿は変わっていた。


 ここでもう一度スローにして変化過程を見てみよう。


 まず競泳水着が粒子化し、左腕の腕時計に吸い込まれて行く。


 次の瞬間、体全体を覆うように水色のタイツが洗われ、競泳水着に負けないぐらいボディラインをくっきりと出す。


 そして両腕と両足に青いプロテクターが現れ、ショルダーアーマーが両肩に装着される。


 下部はまるで水着の様な装甲に覆われ、その両側面には黄色いラインが走る丸っこい物体が備え付けられていた。


 胸部は自信の胸を覆い隠せる程の大き目な青い胸当て。


 そして最後に首は黄色い淵で覆われた物に覆われ、青いバイザーと黄色いラインが走るヘルメットが装着された。


 この間僅か0.05秒にも満たない。


「来い!! ライド・ディネイダー!!」


 変身し終えた少女はそのまま空高く跳躍。


 同時にどこからともなく現れた大きな青い水上バイクの様な乗り物「ライド・ディネイダー」に着地。


 そのまま猛スピードで空を駆け抜けていく。 


☆  


 同時刻。


 日本の陸上自衛隊基地は襲撃を受け、大パニックを引き起こしていた。


 その集団は全身黒いタイツを身に纏い、頭部をホッケーマスクにゴーグルを付けた様な仮面を付け、手に持つ銃らしき物体から光線を無秩序に放っていた。


 どこに当ろうが、例え人に当ろうと御構い無しに乱射する。


 隊員達も負けじと応戦する物も居たが敵はまるで豆鉄砲でも浴びているかのように動じず、徒労に終った。


「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! チキュウの武器がこの程度だとはな!! これなら俺一人でも十分だ!!」  


「ば…馬鹿な!!?? 銃弾が通用しないだと!!??」 


 二足歩行するカエルのような姿をした化け物は自衛隊から銃弾を食らってもピンピンとしている。


 黒タイツの方にはある程度ダメージが与えられるがそれでも信じられない生命力を誇りながら反撃してきた。


「俺の舌をくらえ!!」


 我が物顔でピョンピョン跳ね回り舌を伸ばしてまるで鞭の様に使い、自衛隊の隊員達を切り裂いて行く。


 この異常な存在に流石の自衛隊も恐慌に駆られる物まで出て来た。


「キサマら!! ゲドゥの恐ろしさをチキュウの猿どもに見せてやれ!! ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


「「「「「「ドゥー!!」」」」」」


 号令を掛けつつ、司令部目掛けて進軍。


 辺りには血と硝煙の香りが漂うがそんな事を構わず邪魔者を排除しながら突き進む。




 その頃、司令部ではこの異常事態を目の当りにしてパニックを引き起こしていた。


「何なのだあの集団は…カルト集団か、それとも何処かの国が送り込んだ特殊部隊か!!??」


「どうして警報に引っ掛からなかったんだ!!??」


「わ、分りません!!?? レーダー網を潜り抜けてきたとしか…」


「司令!! 応戦に当った人間からの通信が全て途絶えました!!」


「格納庫も大破!! 宿舎も襲撃されてます!!」


 憶測と絶望的な報告が飛び交う。


 この基地の司令官は難しい選択を迫られようとしていた。


 モニターに移るまるで特撮番組に出て来そうな連中相手に全滅など恥晒しなるのでは?


 いや、面子がどうこうよりも撤退した方がなど…と言う考えも起き始めていた。


「司令!! 敵が本部を取り囲んで来ています!!」 


「何!! もうそこまで追い詰められたのか!!??」  


 いくらなんでも手際が良すぎると心底思いながら打開策を考え始める。


(まさかここまで手際良く追い詰められるとは…一体何者だ? 兎に角、総員退避命令を…)


 司令部全体が集中砲火を浴びたのはその後だった。



「遅かったか…」


 空からライド・ディネイダーに乗ったデューネが現れる。


 眼前には燃え広がる基地が煙を上げて炎が空を照らし、この基地に勤める隊員達の亡骸が彼方此方に倒れていた。


(宇宙犯罪組織ゲドゥ……何のためにこんな真似を……)


 その光景を見たデューネはアクセルを握る拳と歯に力が篭る。


「うん? アレは一体何ゲロか?」


 カエルの怪人が気が付いた時は既に真上の通り過ぎようとしていた所だった。


 ライド・ディネイダーが燃え盛る本部を越えた直後、青い何かが燃えさかる本部のの屋上に着地する。


「宇宙刑事デューネ!! 推参!!」


 業火に包まれる本部の炎をバックにデューネは自分に与えられたコードネームを力強く名乗る。


「そ、その姿は…どうしてこんな辺境の星に宇宙刑事が!!??」


「私も驚いたぞ…宇宙犯罪組織『ゲドゥ』。この辺境の星で何を企んでいる!!??」


 デューネはカエルの怪人相手に怒気を含みつつ言い放つ。


「ゲヒャヒャヒャヒャ!! なぁに単なるデモンストレーションゲロ!!」


「デモンストレーションだと?」


 自分達の実力を知らしめ、後の仕事をやり易くする――軽く頭を働かせて導き出した推論だが大方こんなところだろう。


「宇宙刑事を倒したら俺様の格が上がるぜ!! やっちまえ!!」


(ッ!! 本当はもっと情報を引き出したかったが!!)


 黒タイツの男達は次々とビームガンをデューネに放つが軽く前転跳躍されて回避されてしまう。


 空気をビームが切り裂く中、デューネは右脇のパッドから同じく銃を取り出した。


「食らえ!! ブラスターガン!!」


 空中から落下する間、ディネイドは次々と黒タイツの男に青い閃光を放つブラスターガンを発射。


 百発百中の命中率を誇り、次々と敵の戦闘員に光の鉄槌を食らわして行く。


 地上に到達する頃には半数以上の敵が倒されていた。


「何をボサボサとしている!! 私はここだ!!」


 地上に降り立った後もまるで西部劇のガンマン張りに次々と敵に向けて発射。


 あっと言う間にカエル怪人のみになる。


「お前一人だな…」


「調子に乗るな小娘が!!」


 そう言って舌を飛ばす。


 舌は袈裟斬りの機動を描いて地面を切り裂き、デューネに迫る。


「クッ!!」


 軽く後方に下がるも胴体に直撃、火花が吹く。

 それに勢いづいたのかカエルの怪人は「もう一丁!!」と舌を地面に叩き付けるように振り下ろした。


「そんな攻撃何度も通じるか!!」


 今度は横にかわし、ブラスターガンを相手に向けて放つ。


 しかし相手は跳躍して回避し、燃え盛る司令部の壁を蹴って張り付き三角飛びを披露。


 目が怪しく光る。


「死ねぇ!! デューネ!!」


 目から怪光線が放たれ、ディネイドいた辺りの地面が爆発する。


「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! ザマアないな!! 大人しくしていれば可愛がってやったのによぉ!!」


 地面に降り立ち、勝利を確信したのか高笑いを挙げる。


「レーザーブレード…」


「ど…どこだ!!??」


 もう聞えない筈の声が響き渡る。


 慌てて周囲を見渡すがその姿を確認できなかった。


「デューネフラッシュ!!」


 漸くその場所が上だと分かり、頭上を見上げた瞬間、青い閃光がカエルの怪人の視界を覆う。


 デューネの持つ光の剣がまるでバターを切り裂くナイフのようにカエル怪人の胴体を両断。


「貴様が行った悪行…死んで詫びろ…」


「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ…宇宙刑事の言葉とは…思えないな…」


 カエル怪人はそう言い残し、爆発した。


☆ 


 ライド・ディネイダーに乗って屋内プール場に戻って来たデューネ。


 帰って来た時には夜もさらに深くなっていた。。


(本当にヤツラが来るとはな…)


 脳裏にあの自衛隊基地の惨状を思い浮かべつつデューネは競泳水着姿から着替えるために更衣室に向かう。


 宇宙犯罪組織ゲドゥ。


 銀河連邦が相手だろうと何だろうと凶悪な犯罪行為を繰り返し、そして自分の故郷を消滅させた難き敵。


 そんな連中がこの地球にも魔の手を広げてきた。


(奴達の目的が何であれ…私は今度こそ食い止めて見せる…絶対に)


 かつてゲドゥに滅ぼされた星の事を思いながらもデューネは決意を新たにする。


 END

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