2018年4月1日 「ここから始まる」
一日一作@ととり
第1話
「すべてはここから始まったんだ」祭りの夜店ですくってきた金魚を金魚鉢にうつしながら、彼はいった。赤い金魚、黒い金魚、出目金魚、金魚はぐったりとして動かない。「僕は君を許しはしないよ」そういうと彼は金魚鉢を持ち上げた。私の手が届かない高い所に金魚鉢を置いた。私はケージに入っている。足元には金魚の死骸がある。さっきまで元気に跳ねていたのに、今はもう動かない、ちょっと生臭い。
「ねえ、ミルク」と彼は話しかけて、私は白い自分の毛を舐めた。「もう金魚で遊んじゃいけない」「お母さんが猫をあまり好きじゃないのは知っているだろう?」「その上、金魚まで殺してしまったら、お母さんがなんて思うかわかってるのかい?」私の耳は後ろを向いて、目は明後日の方を見る。ああ、タンスの隅がすごく気になる。彼は私をさとすのを止めた。
「すべてはここから始まったんだな」窓の下に広がる神社の境内、外は賑やかなお祭りをしている。明るい提灯が揺れ、焼きそばの焼ける匂いがする。その数日前、私は段ボールに入れて捨てられていた。箱のガムテープを取って蓋を開けてくれたのが彼だった。その日から私は彼の飼い猫になった。
(2018年4月1日 了)
2018年4月1日 「ここから始まる」 一日一作@ととり @oneday-onestory
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