第2話 契約
やはり俺は相当疲れているらしい。
部屋に美少女がいる。
先に言っておくが、断じていかがわしい店には電話していない。悲しいことにそんな勇気も金もないもんでな。
「……とりあえずチェンジでぇええええ!!!!!!!」
「そんなんじゃないです!ひどいですよう!こんなかわいい女の子を何時間も外で待たせていいって言うんですかっ!」
「だって知らない人を家にあげるなってママが。」
「けして怪しいものではないんです……!私はみるくっていいます!あなたの相方になるために来ました!」
「知ってるカナ?怪しいやつはみんなそういうんダヨ?」
こいつ俺が1番苦手としているタイプの人間だ。不思議ちゃん?いや、人んちに不法侵入するくらいだから不審ちゃん?
「相方だかなんだか知らんけど、俺は今疲れてるんでね。他を当たってくれ。」
「あなたじゃなきゃダメなんです!笹原ショウさん。ここに帰ってくるまでに何か不思議なことが起こりませんでしたか?」
「ここに帰ってきてからの方が不思議なこと起こってるんやけど。でもまぁなんかやばそうな怪獣みたいなんが襲ってきたなぁ。俺の幻覚や思うとったけど。」
「そうです!それです!その怪獣、急に消えましたよね?」
「うんうん確かに!だから俺の幻覚やて☆てことで怖いから早く家から出てってくれへん?」
「違うんですよう!それ、ショウさんの能力なんです!」
やはりやばいやつに捕まったようだな俺は。能力とかわけわからん。アニメの見すぎやろ。さぁどうやって帰ってもらおうか。
「お、おれがのうりょくしゃだってー?セカイノヘイワハオレガマモル!」
「あーっ!信じてませんね!?いいですよっ。これを見てくださればわかると思いますので!」
そう言ってみるくは手を振りかざす。するとスクリーンのようなものが俺の前に現れ、映像が流れ始める。
『……でやねん。なんで俺がこんな目に合わなあかんねん!こんなしんどいんは一回で十分や!もうええわ!!』
『……あほくさ。帰って飯食お。』
……これは確かに俺だ。ついさっきまでの俺で間違いない。こいつ、まさか……
「ストーカー!?ついに男もこんな目に遭う時代が来てしもうたんか……。」
「これでも信じてくれないんですか!もー、しょうがないですね。私が説明します!」
最初からそうしろよ。そう思ったのは俺だけだろうか。
まぁそれは置いといて、このみるくとかいうやつの話はこうだ。
近年、マイナス思考で暗い人達が増えてきている。これをこじらすとさっきのような怪獣になる。怪獣を元の人間に戻せるのは、限られたお笑い芸人だけ。それに俺が選ばれちゃったってわけだ。
「ショウさん、私とコンビを組んで世界を救ってください!」
「お断りします。」
誰がやるかそんなもん。俺が目指すのは日本一の漫才師。それだけだ。相方はまた別に見つけてやる。
「ありがとうございます!それでは相方の印にこのブレスレットをどちらかの腕につけてください!」
おっと人の話を聞いていないな?俺は人の話を聞かない人間がゴーヤの次くらいに嫌いなんだよ。
「攻撃技の発動は“なんでやねん”トドメを指す時は“もうええわ”です。ボケの後に発動させるとより威力が増します!これから一緒にがんばりましょうね!」
カチャ。にっこりと微笑んでいるみるくが俺の腕にブレスレットをはめる。これも俺に拒否権はないのか。
「あっ!そうそう、言い忘れてましたがこの能力は、日本一面白くなる見込みが高い人しかなれないんですよ!」
「ふっ……。そんならしゃーないなぁ。ツッコミの練習と思って付き合ったるわ。」
ペラッペラな褒め言葉にも関わらず気を良くした俺は、この時の自分の判断をこれから大いに後悔することになるのであった。
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