第2話

「ではナキオ、これからお世話になります♪」


「はい?」


「息をする臓器」


「それは肺?」


「ものが燃えると残るもの」


「......えっと、灰?」


「3.141592.........」


「?あ、それは『π(パイ)』」


「お見事」


「いやなぜ即興漫才を?」


「文字数稼ぎです」


「?」


「いえ、気にしなくて大丈夫です。この話を広げるといろいろな人に怒られるので」


「?」


「とりあえずもう一回言いますね。これからお世話になります♪」


「だからどういうことだよ」


「そのままの意味です。助けていただいたついでに、あなたの家にご厄介になろうかと。行くあてもありませんし」


「だめだからな?」


「なんでですか⁉身よりの無い少女を放っておくのですか⁉」


ウルウルした目で見ているけど、なんでだろう、さっきみたいにドキドキしない。


「こんな可愛い女の子を!こんな山の中に!」


あぁそうか、第一印象より若干残念な気がするからか。


「分かった分かった。確かに女の子を一人ぼっちで置き去りは心が痛むし、とりあえず村までは連れていくよ。誰か引き受けてくれる人がいるか探してみよう」


「まるで捨て犬か何かの気分です」


「似たようなもんだろ、人間かどうかも怪しいしな」


「何を言ってるんですか!私は人間.........ですよ?」


おい、今の間はなんだ。


「さぁ!さぁ!早く行きましょう」


「なんで急かす?お前はなんなんだ⁉」


なんか大事なことを曖昧にされたまま、俺たちは山を降りて、そのまま村に戻った。


・・・・・・・・


「とりあえず、家のお隣さんから訊くか」


「ねぇ、まずあなたの家に行きましょうよ」


「お隣さんはいい人だから、きっと引き取ってくれるぞ」


「なんだか、要らなくなった電化製品の気分」


・・・・・・・・


「いや、家は今で精一杯なんだ。いくらイオジのとこの坊っちゃんの話とはいえ、もう一人養う余裕は無いよ」


「そこを何とか、こいつもよく働きますんで、こんなチャンスなかなか無いですよ」


「ナキオ、まるで商品の売り込みみたい。でもはい、仕事でも家事でも、何でも手伝います」


「悪いね、他を当たってくれ」



「よし、次は向かいの家だ」


「ナキオ、あなたの家には行かないんですか?」


・・・・・・・・


「あらナキオちゃん」


このおばさんは明るくおおらかで、生活にもさほど困っていない。


「あの、実は.........」


・・・・・・・・・・


「無理だよ」


「え?なんで?」


「だってその子、山で行き倒れてたんだろ?」


俺はルナのことを説明するに当たり、「山で倒れているところを見つけた。家出してきたらしく、行くあてがない」と嘘をついていた。

だって、「光る竹を切ったら出てきました」なんて信じるわけない。

家のお隣さんは、特に見つけた経緯は気にしていなかったが。


「行き倒れなんて、どこの誰とも分からないよそ者じゃないか。ナキオちゃん、あんたが騙されてるのかもよ」


騙しているのはルナではなく俺だが........。

まぁ、正体不明は事実か。


「よそ者なんて、村に入れること自体が間違いなんだよ」


「いや、何もそこまで言わなくても」


「なら、ナキオちゃんはこの子の身元を保証できるのかい?どうだいお嬢ちゃん、あんたどこから来たんだい」


「そ、それは.........」


答えに困るルナ、やはり、何か隠していることが。いや、今はどうでもいい。


「確かに、俺はこいつのこと全然知らないし、信じる気にもなれない。ただ、こいつを放っておくわけには行かない。俺はあんたみたいな心の狭い人間じゃない!」


「な⁉」


「行くぞ、ルナ」


「え?あ、はい」


俺はルナの手を引いて歩き出す。

まったく、人間は表と裏があるというが.........まぁ、あの人のよそ者を受け入れがたい気持ちは分からなくもないが。


「あ、あの、ナキオ?」


「ルナ、俺の家に行くぞ」


「あなたの家?」


「あぁ、お前のことは、当分俺が引き受ける。じいちゃんたちが反対しても説得する」


お人好しの二人に限ってそんなことは無いと思うが。それが最初俺の家を避けてた理由でもあるが。


「えっと、いいんですか?」


「あぁ、元々、これはお前の既望だしな。その代わり、家事や畑仕事、ガンガン手伝ってもらうからな?」


ルナがパッと笑顔になる。


「はい!よろしくお願いします!」


「おぅ!」


「あ、あの............」


「?」


ルナが照れたように頬を赤く染め、モジモジしながら。


「ナキオは意外と優しいですね」


そう言って柔らかく笑みを浮かべるルナに、最初のようにドキッとしたのは言うまでもない。

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竹取リスタート 秋野シモン @akinoshimon

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