竹取リスタート

秋野シモン

第1話

さぁ、狙いをしっかりつけろ。


チャンスは一回、失敗は許されない。


みんなが俺に期待している。俺はその期待に答える。


負けちゃダメだ。逃げちゃダメだ。


全神経を研ぎ澄ませ。


「っそこだ!」


スッポーン


「見事!一番の上物を引き当てたのは、イオジの孫のナキオだー!」


「よっしゃー!」


「ちくしょー、自信あったのにな」


「へへん、俺に勝てる者などいないんだよ!」


俺は引き当てた巨大ダイコンを掲げる。

今日は、一年に一度の野菜引き抜き祭。一つの野菜畑から一番よく育ったものを見つけ出し、引き抜き当てた者が、その野菜と参加者✖100エインを賞金として獲得できる。

今年はダイコンで、見事引き抜き当てた俺は、巨大ダイコンと2000エインを手にいれた。


「ただいま!じいちゃん、また勝ったぜ」


「そうか、こう何度もその言葉を聞くと驚かなくなるよ。今年で何回目だ?」


「多分四回か五回連続」


「まったく、お前が出場禁止になっていないのが不思議だよ」


「じいちゃんの人望のおかげだな」


「そうならわしも誇らしいよ」


「なんせ、じいちゃんとばあちゃんの自慢の孫だからな」


「あぁ、お前はわしらの希望じゃ」


「そういえば、ばあちゃんは?」


「下の川で洗濯しとるぞ?」


「え?前に変なものを見つけたっていう川?」


「あぁ、大きな桃が流れてきたなんて、今でも見間違いだと思うが」


「だよな。まぁ、もし本当だとしても、怪しすぎるな。無視して正解だったよ」


「まぁ、また変なものを見つけて拾って来ても困るし、様子を見て来てくれるか?」


「あぁ、分かった」


下の川に着くと、すでに洗濯を終えた祖母が、洗濯物の入った樽を持ってこちらに向かって来ていた。


「ナキオ、向かえに来てくれたのかい?」


「じいちゃんが様子見て来いって。まったく、洗濯機があるんだからそっち使えばいいのに」


「こういうのは自分の手を汚した方がしっくりくるんだよ」


「ゴム手袋してるじゃん」


「気持ちの問題なんだよ!」


「あっそ」


「それより、祭が終わったらじいちゃんの代わりに山に薪をとりに行くんじゃなかったかい?」


「あ、そうか。あれ?でもじいちゃん、さっきそんなこと一言も......」


「まったく、あの人は自分で言ったことを忘れて。早くお行き」


「分かった」


家の裏にはそこそこの大きさの山があり、いつもそこの木を切って薪にしている。


俺はいつも通り山に入り、手頃な木を見つけると、斧を......斧を.........。


「あ、斧を忘れた」


うっかり、「Oh No!」なんてつまらないシャレを言うところだった。 


「さて、どうするか」


家にあると思うけど、また往復するのは疲れるしな。


『そこの人』


ん?誰だ、この声


『そこの人』


そこの人?どこの人?


『そこで突っ立っているあなた』


「もしかして、俺?」


『そう、私の元へ来てください』


「はぁ」


誰とも分からない声だが、俺はなぜか、その声に従い、声の元へ向かって行った。

やがて森を抜け、竹林へ入った。ここへは、タケノコを取るために何度か来たことがある。


だけど、そのときには無かったものがある。

一本だけ、眩しいくらいに光る竹を見つけた。


『もっと近くへ』


声は光る竹から聞こえていた。近くに寄ると、竹ではなく、竹の中のものが光源だと分かる。


『さぁ、その竹を切ってください』


「いや.........」


『どうしたんです?早く、横にスパッと』


「斧が無くて」


『.........そうですか、なら他のものでも構いません。何か刃物は?』


「そう言われても.........」

ほとんど手ぶらだし。


『その背中のものは?』


え?背中?


「あ、剣があったの忘れてた」


背中に装備していた片手剣を抜く。


『なんで斧は無いのに剣があるんですか!あと普通剣を装備していて忘れますか⁉』


「護身用にいつも持っているんだけど、それがあたりまえ過ぎて忘れてた」


『そうですか、なら、その剣で早く切ってください』


「りょーかい」


俺は剣を握って構える。


『あの、なぜか気迫がすごいんですが.........』


「はぁっ!」


剣を使うのは久しぶりだが、とりあえずはきれいに切ることができた。


「確かに切れましたが、この竹だけじゃなくて周辺の数十本も見事に真っ二つですよ」


「ほう、言われてみれば」


「どれだけ馬鹿力なんですか」


切れた竹の中から、尚も聞こえる声、切り口を覗いてみると、中から小さい何かが飛び出してきた。


その何かは白い光を放ちながらフワフワと浮いている。


「なんだこれ、蛍か?」


「失礼な!私は虫じゃありません」


その小さい何かの声は、竹の中から聞こえていた声と同じだった。どうやら、声の主はこいつらしい。


「私はルナといいます。とある理由から、竹の中に囚われていました。助けていただき、ありがとうございます」


「いや、それはいいんだけどさ...」


「?」


「そのピカピカどうにかならない?眩しくて話しづらい」


「そうですか、なら......」


そう言ってルナは、一瞬強く光ったかと思うと、次の瞬間には、白髪の少女へと姿を変えていた。

見た目は俺と同い年くらいで、ゆったりとした、僧侶にも似た白服に身を包んでいる。あとかなり可愛い。


「これなら光らないから眩しくないですし、話しやすいと思うのですが」


別の意味で眩しいし、話しづらいです。


「えっと、あなたのお名前は?」


「え?あ、ナキオだけど.........」


というか、竹切るように頼んでおいて名前知らないのかよ。


「ではナキオ、これからお世話になります♪」


素敵な笑顔で、突然にそう言った。

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