ある研究室の会話 その2
ある研究室の一室で准教授は、二台のディスプレイを相手に、苦悶の表情を浮かべていた。
准教授は男である。三十代半ばの歳だった。白衣は近くに掛けてあった。この男に限っては、椅子に長時間長居する場合、袖元が気になり集中できないらしい。室内の気温もひとつの原因だろうか。蒸し暑かったからだ。
ディスプレイには、英語で羅列された文章がならんでいる。准教授には、英語の意味が理解できていたのだが、文章に書かれている解釈に疑問があった。にわかに信じがたいことが書かれていたからだった。
室内の扉が開いた。若い女性が飛び込んでくる。准教授の助手のようだ。年齢は彼と大差がなく、白衣を身にまとっている。
「せんせい、先生!」
いらっしゃらないんですか、と小声で綺麗な声が静寂な室内にこだまする。
室内は二つのセクションに区切られ、簡素な敷居と扉があった。扉の奥にいた准教授を探し、室内中に声を響かせる。透明の窓で仕切られている奥に後姿の彼を見た彼女は、扉をそっと開いた。准教授の真後ろに立った。
女助手は、明らかに准教授へ好意を抱いていた。人の気配を感じたのか、准教授が振り向く。
「なんだ! いたんだ」
「何しているんですか?」
准教授は助手には眼もくれず、ディスプレイの論文の解釈を考え続けていた。女助手もディスプレイの英語の意味に疑念をいだいた。
「これ、本当なんですか?」
彼らはこのディプレイの英語の論文の真意を知りたかった。
「君はどう思う? 私には一概に判断できないな」
彼女も困惑の顔である。
「第一に細かく分析することができない点。第二に我々の技術水準では観察観測しか出来ない点だ」
「でも、過去には、少ない分析から新事実が発見されたことも……」
「たしかに、君の言うように発見された事実もあったかもしれない。だが、この論文は論外だ。確かめようにも」
明らかに確かめようがない。
准教授の最後に続く言葉を助手でも推測できた。
なぜなら、私たち人類を支えている太陽が、あと5年で
※白色矮星=恒星が進化の終末期にとりうる形態の一つ。(Wikiより抜粋)
准教授と女生徒 芝樹 享 @sibaki2017
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