准教授と女生徒
芝樹 享
これは、架空のある研究室の他愛もない会話である。
ある研究室の会話
ある国に、教育を
そこで教育者として教えているある准教授と、その指導を仰ぐ、ある生徒の他愛もない会話である。
准教授は男だ。歳は30を越えたまだやり手の教育者ならぬ、研究者といってもいい。指導を仰ぐ生徒は20代半ばの女である。
彼らは10歳未満の年の差であり、互いに恋愛対象になってもおかしくない。だが、教育者と指導を
准教授はあるとき、その女子生徒を研究室に招く。
くどいようだが彼らは恋愛対象として互いに見ているわけではない。
彼、すなわち准教授は、この前の講義の際彼女から『あるテーマ』について、質問され答えられずに終わってしまった。納得いかず、彼女に一週間後、研究室に来るように、促していたのだった。
女生徒は有無も言わず研究室の扉を叩く。
「准教授、いらっしゃいますか?」
奥からドア越しにこもった声が返ってくる。
「どうぞ、入りなさい」
彼女は研究室のドアをそっと開けた。
彼はパソコンのディスプレイに向き合い、キーボードをカタカタと鳴らしている。
ディスプレイのデジタル時計を見た准教授は、「もうこんな時間だったのか……」と呟いた。彼はビジネスチェアから席を立つと、女生徒の近くに備え付けられたテーブルへと歩き、「どうぞ」と座るよう彼女に
彼女は緊張しているようだった。
「さて……」と准教授はどういう手順で話を始めようかと悩み「あのテーマに対する君からの質問に最適な解答だったな……」と掌を両手で滑らせ考えをまとめている。
「はい……、私もあれから考えました。浅はかだったと反省しています。問いに対しての解答は現時点では……」
「まあ、待ちなさい。たしかに現段階の科学技術では、私も確実な解答は出せないかもしれない。いや、出せないと断言できる」
「現段階……」と彼女は准教授の表情を見つめる。
准教授は
「人間は『そうぞうすること』で、あらゆる科学が発展している。君にもその辺は理解していると思う」
彼女は頷き
「ただ、テーマにおける『人間の寿命』の変化はここ数百年のうちに、目まぐるしい進歩を遂げているだろう。大げさに計算してもあと百年以内に寿命が20年ぐらい延びるのかもしれない。とはいいつつも、君の質問してきたことは……」
「絵空事、だと……?」
准教授は黙ったままだ。
「ありえなくはない。というか宇宙開発技術で必要になってくる課題かもしれないな。ただ、長期宇宙船の船内で運動能力を衰えずに暮らすには、絶えず運動ができる環境を整えなければならない。それをコールドスリープ状態でできるのだろうか疑問だ!」
「そうですよね。睡眠しながら、脳や筋肉、細胞が衰えずに活性化するなんてこと、やはり、夢物語になるんでしょうね」
「君の発想は、素晴らしく面白いと思う。しかし、長期間、寝ながらにして脳や筋肉を一定値に保持したままできるのかといえば、今の科学力では『NO』としかいえないだろう、というのが私の見解だ」
彼女は
「准教授、ありがとうございました。お忙しいところ無理言ってすみませんでした」
彼女は研究室をあとにした。
准教授は、ひとり考えていた。もし、彼女の言うような絵空事の発想が現実になるようなら……。
彼はそう思った。
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