迎えた目覚めは
白い幹をした木のそばにつれてこられた私は、なにがなんだか分からないまま、かっこいい彼と向き合った。
彼が真剣な表情で口を開く。
「…君って、男じゃあないよね」
「は、はい…」
私はもちろん肯定した。
すると、彼は額に手をあてて項垂れた。
「やっぱり。……君が性別を偽る理由なんてないから、きっとシェルが早とちりしたのだろう…まったく」
そうです、まったくもってその通りです。出会い頭に男と言われて、それからずっと勘違いされてました。
でも、今さらもうどうでもいい。それよりも、私がおかれているこの状況について知りたい。
「あの、ここはどこなんですか? あ、あなた達は誰ですか?」
「ああ、ごめんね。そういえば名乗りさえしていなかった」
彼は背筋をすっと伸ばすと、柔らかい笑みを浮かべた。
「僕はラウグンシア・イートスハイル。長いからラウグと呼んでくれてかまわないよ。どうぞよろしく」
「あ、よろしくお願いします……」
へえ、ラウグンシアなんちゃら…。うん長い。ラウグさんね。
「それでここはどこかという質問に簡単に答えると……異世界だよ。君にとっては」
「……異世界?」
日常会話ではめったに聞かない単語。彼は冗談を言っているのだろうか。私は思わず顔をしかめた。
「信じられないのも無理はない。でも、周りを見てみて。君が今まで暮らしてきた場所では見られなかったような風景ではないかな?」
確かに、目を開けた時に、見たことのない植物や風景であるなと思った。
「で、でも…他の国に行けば見たことのない景色なんていくらでもありますし……そう簡単には信じられないです…」
「なるほど」
ラウグさんが苦笑いを浮かべた。
「でも、これを見てもらえば、少しは話の信憑性が増すだろうか」
彼はおもむろに、着ているシャツのボタンに指をかけ、そして外し始めた。
「えっ」
私は慌てたが、上から2つほど開けただけで彼の指はボタンから離れた。そして襟から服の中に手を突っ込むと、何かを取り出した。
「あ、それ……」
私には見覚えのあるものだった。ローブの彼に襲われた時、彼の首から下がっていた光るペンダントだ。
「これは『言葉あわせの蛍石』と言ってね、魔力を込めて作られたものなんだ」
「蛍石…」
「僕たちがこうしてお互いの言葉を理解できているのは、この石のおかげなんだよ」
そう言うと、彼はペンダントを首から外した。
「――――――」
「えっ?」
途端、彼は先ほどまでの日本語とは違う、聞いたこたのない音声を発した。
「――――― ―――」
「えっ? なに?」
私はひどく混乱した。思わず後退り、背中に木が当たった。
「ごめん、驚かせすぎてしまった」
ラウグがペンダントをつけ直すと、しっかりと日本語が聞こえてきた。
そこで、私は、はたとした。ローブの彼の口の動きの違和感。まるで日本語吹き替えの映像を見ているような気分になったのは、石によって彼らが話す言葉が吹き替えられていたからなのだろうか。
「これで、信じてもらえただろうか」
「…たしかに、なんというか、常識じゃ考えられないことが起きていることは認めます……」
私がおずおずと頷くと、彼は笑った。
「さて、ここからが本題だ」
――――――――――――――――――――
お久しぶりです。
およそ1年ぶりの更新です。
牛歩の極みでごめんなさい。
別に現実が忙しいとかじゃなくて、妄想を言語化するのが下手くそすぎるんです。
ラウグさんの口調、一歩間違えるとぜんぶ「~か?」になっちゃうの面白い。
読んでくださり、ありがとうございます!
貝は殻を残して中身だけ食べられる 都々丸@牛の歩み @190201300831
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