朝の風景
毎朝、先頭車両の一番奥の席に座る学生がいる。ひとつ前が始発駅で、先に座席を確保できるのだ。そこが彼女の指定席だった。彼女はイヤホンを付けて、じっと目を閉じている。最初は寝ているのかと思ったが、降りる駅でぱちと目を開け、立ち上がる。目と耳を塞いでも、不思議と降りる駅を間違えない。混雑する車内で、私は立ちっぱなしだ。冷ややかに彼女の黒髪を見下ろしているけれど、私のことなど気付いていないだろう。
私の降りる駅のひとつ前で彼女は降りる。しかし、今日は目を開けなかった。声をかけてやる義理もない。いつもの駅を通過し、次の駅に到着しても、彼女は目を覚まさない。一駅乗り過ごす彼女を置いて、電車を降りた。ごった返すホームの流れはエスカレーターへ続いている。ベルトコンベアを流れる荷物のように、行儀よく進む。つまらない朝の風景に、私も紛れ込んでしまった。
パソコンを起動する前の、暗い画面に映る目は空洞だ。何度か瞬きをして、表示される日付を確認する。この会社で働きだして、今年で五年になる。同じ車両の彼女を見るのもそれくらい。車輪の軋む音がする。彼女はずっと同じ制服のまま、私の前で座っている。変わらない朝の風景。
いつから、彼女はそこにいた?
部下と上司 camel @rkdkwz
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