カクヨム作者はカク語りき

戸松秋茄子

「the cat's meow」

・解説する作品のタイトル

 「the cat's meow」という短編です。文体の性質上、文字数のわりに早く読めるはずなのでよければ一度目を通してみてください。決定的なネタバレはしないつもりですが、さっと目を通してもらった方が理解が早いと思うので。


・作品のURL

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054882861809


・キャラを作る際に工夫した点はありますか?(キャラの名前、性格、キャラ同士の関係性など)

 主人公の名前、未亜みあは猫の鳴き声を模しています。一方、猫の申弥しんやはそれに対応する名前として考えました(ひつじさるで干支つながり)。名前に対応性を持たせることで、作中で言及される(申弥という名前の)弟が実在したことを匂わせています。

 また、幼馴染の雄二との関係性にも含みを持たせています。つまり、直接的な言及は一切しないでおこうと。ここも読者の想像に委ねるつくりになっています。あ、雄二って名前はオスだからってことで適当につけてます。


・タイトルで工夫した点はありますか? (小説タイトル、章のタイトル、各話のタイトルなど)

 タイトルは直訳で「猫のにゃあ(鳴き声)」という意味ですが、慣用句として「素晴らしいもの」という意味もあります。これはダブルミーニングですね。物語を最後まで読めばその意味がわかると思います。

 また章のナンバリングが九章までになるよう調整してあります。これは猫は魂を九つ持つという伝承を意識しました(もう一つのタイトル案として「cat's lives」というものもありました)。


・物語のテーマは何でしょうか? 裏テーマはあるでしょうか?(テーマとしては恋愛だけども、裏テーマとしては世界をどう救うか、というところがある…など)

 わかりづらい話なので、表テーマが何なのか作者もわかってなかったりします。強いて言うなら、「モラトリアム」とか「野性への誘い」でしょうか。

 あとは、裏テーマ、と言っていいかわかりませんが――

 この話は元々、「子供を探して奔走する母親」を描きたかったんです。というのも、構想したときによくそういうストーリーの映画を観ていたので。

 ただ、そのままやるのもおもしろくない気がして、「母親」にあたる主人公を少女に設定しています。これには、「子供」を猫に置き換えることで描写を節約する意図もあります。人間だとやっぱりもうちょっと描写が必要になってくるので。

 結果として、主人公に「母親にして子供」という多義性が生まれて、おもしろい構図になったんじゃないかなと。序盤に、主人公の母離れとも言うべきシーンが描かれますが、一方で彼女は猫に対する母性から彼を探し自分の手元に取り戻そうとしている。そんな一筋縄ではいかない多義性を意識しました。

 つまるところ、この話は、ユングが提唱した元型アーキタイプのひとつ「グレートマザー」を強く意識した内容と言えます。つまり、良くも悪くも子供を包み込もうとする力、女性や大人に限らず誰しもが持つ母性を主題としているのです。その意味でも、主人公を少女としたのは正解だったと思います。

 子供を探して奔走する母親というと、原型はおそらくデメテルあたりになるのでしょうけど、この話ではその神話も参考にしています。彼女の娘ペルセポネはハデスによって拐かされたという印象が強いですが、その実、娘自身も母親の元を離れようとしていたのではないかという解釈も存在します。これは、この話の主題とも共通する部分ですね。物語の舞台を冬に設定したのは、この神話を意識したからでもあります(もちろん、第一義として受験の直前とすることでモラトリアムの感覚を表現したかったというのもありますが)。

 あともうひとつ下敷きにしたお話があります。グリム童話の「トゥルーデさん」です。これは、親の言うことを聞かないあばずれ娘が魔女のトゥルーデさんを訪ねてひどい目に遭うという話で、そう要約すると、この話の原型になっていることがわかると思います。かなり明瞭に意識していたので、当初のプロットでは、もっと明確な形で「魔女」が登場する予定でした(ちなみに童話における「魔女」は母性の負の面が投影された影であることが多いです)。また、主人公が受験を蹴り出すようにして家を飛び出すのも、現代における親への最大の反逆は何だろうと考えた結果です。

 まとめると、グレートマザーを主題としつつ、少女を主人公とすることで、母親視点の物語であるデメテルの子探しと、子供視点の物語であるトゥルーデさんの融合を図ったのがこの話と言えそうです。


・地の文に工夫している点はありますか? (短文を心がけていますか? 長文でも読みやすいor読者を惹きつけるような工夫をされていますか?戦闘シーンや情景描写にこだわりがありますか?)

 短文をかなり意識的に心がけました。クールでテンポのいい文章を目指していたので、心理描写もほとんどしていません。設定への言及なども避け、とにかくスピーディーに読めるよう仕上げました。これは当時よく見ていた映画と、デイヴィッド・ピースという作家の影響ですね。ヘミングウェイの「氷山理論」の影響もあるかも。

 かといって視覚的な文体というのとも少し違って、擬音をかなり多用しています。これもピースの影響ですね。ともすれば幼稚な印象に陥りがちなんですが、その辺をどうにか回避して効果的に使う方法があるんじゃないかと挑戦しています。主題とも絡めて必然性のある表現にしたつもりです。

 具体的には、「擬音=音」と「鉤括弧付きの台詞=言葉」との対比に注目してもらいたいところ。たとえば猫の鳴き声は前者、人間の台詞は言うまでもなく後者なのですが、これが先述のテーマ「野性への誘い」とかかってきます。大雑把に言って野性と文明の対比なのですね。それが最後、主人公に訪れる変化を表現しています。

 さらに言うと、もう一つ重要な対比があって、それは手と脚です。手を文明的な作業をするためのツールと位置付ける一方、脚はもっと野性的なものとして位置付けています。なので、野性の世界を前にしり込みするシーンで、主人公は(野生の象徴である)脚を怪我してしまう。一方、公園でリフティングを繰り返す少年がいるのは、脚も訓練すれば手のように文明的な手段として使えるという示唆です。ただ、その直後のシーンではそれが裏返って、手も脚のように使うことができるという証明になってしまう。そして、主人公が手を脚のように使ったとき、彼女の命運は決してしまうんです。

 ああ、あと二人称を採用したのはラストの伏線です。いったい、誰の視点なのかという興味で物語を牽引する目的もあります。

 長くなりましたが、擬音と鉤括弧、および手と脚の描写に注目して読んでくださるとおもしろいのではないかなと。

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