第12話 悪魔のささやき

 ゲームが公開された次の日の5月30日。

 朝、7時ごろ、西島から、起き上がり間もない小幡へ、こう言い渡した。

 「お疲れさん。一応リリースしたから、もう帰っていいぞ。

  あと、1週間の休みをやる。ゴールデンウィークも取ってないだろ?

  ま、何かあったら、ケータイで予備差すから、そのつもりで」

 と言い渡し、社長室へ戻った。

 小幡は、1週間の休みと帰宅を許されたのだ。

 (最後の一言は、引っかかるが、ようやく帰れる)

 そして、いろいろな資料を片付けた後、会社を後にした。

 小幡は、太陽がまぶしく感じながら、最寄り駅まで歩いた。

 (そういえば、太陽に当たるのは、何か月ぶりだろうか?

  出社は、日が出る前だし、帰るときも、日が落ちてからだ。

  それに、この3か月間は、会社に泊まり込みだ。

  シャワーも週1回、近くのネット喫茶で済ましているだけだし、Yシャツや下着は、履いたままだ。

  外見は、社会人でも、中身は路上生活者だな。

  においもするだろうが、そんなことを気にしていたら、身が持たない)

 そんなこと思い、多少ふらつきながらも、最寄り駅についた。

 

 ちょうど、出勤ラッシュと重なり、逆方向へ向かう小幡は、川を逆流するするかのように、人込みをかき分けながら、改札へ向かった。

 (この時間は、こんなに混んでいるのかよ。

  俺は、朝早いから、気がつかなかった)

 

 そして、電車に乗り、乗換を一度行い、自宅の最寄り駅までの電車に乗った。

 乗換した電車の中、あまりのだるさに寝てしまった。

 そして、最寄り駅が近くなったころ、はっと目が覚めた。

 窓の外を見て、電車内の電光掲示板を見て、次止まる駅の確認をした。

 「まもなく、柏、柏」

 電車内のアナウンスが聞こえた。

 (どうやら、乗り過ごしてはいないようだな)

 小幡は、ほっとして、柏駅を降りた。

 

 改札を出て、歩く体力がない小幡は、東口のロータリーのほうへ行き、タクシーに乗り込んだ。

 小幡は、

 「サッカー場近くまで」

 とタクシーの運転手に伝え、車の窓から、風景を眺めていた。

 柏には、Jリーグのチームがある、そこのホームグラウンド近くに、小幡は一人で住んでいるのだ。

 

 そして、自宅につき、室内によどんだ空気を感じながら、衣服を全部脱ぎ、シャワールームへ向かった。

 シャワーを浴びて、あぁ~終わったのかぁ~と実感できた。

 

 シャワールームから出て、新しい下着と、部屋着を着て、ベランダの雨戸をあけて、窓も開けた。

 よどんでいた空気が、一気に新鮮な空気になるかのようだった。

 そして、机の上にあるPCに目をやった。

 キーボードに少し埃がかぶっていた。

 小幡は、キーボードの埃を払いながら

 (それだけ、ここに帰ってなかったのか)

 と思いを更けていた。

 そして、PCを立ち上げ、ログインしたとき、3か月も家に帰っていないため、アップデートの通知が大量に来ていた。

 小幡は、アップデートをしつつ、メールをチェックした。

 今は、ほとんど、スマートフォンで連絡を取っているので、ほとんどないのだけど、たまに来るメールがある。

 (それにしても、迷惑メールだらけだな。

  ん?なんだこのメールは?)

 

 そのメールの内容は、

 

  私は、あなたを知っている。

  もちろん、ゲームを作っていることも知っている。

  もし、興味があるなら、私に連絡をしてみなさい。

 

 そして、画像ファイルが添付していた。

 

 (なんだ?

  このメールは?

  それにしても、挑発的なメールだな。

  それにしても、ゲームを作っているなんてこと、誰かにしゃべったっけ?)

 

 小幡は、ちょっと興味を持ちつつ、画像ファイルをダブルクリックをした。

 そしたら、Webブラウザが立ち上がり、複数のタブが開いた。

 (しまった。ウイルスか?)

 小幡は、焦って、Webブラウザを閉じてしまった。

 そして、慌ててウイルススキャンを行った。

 その間、その画像ファイルが、本当に画像ファイルかどうか、調べてみた。

 (どうやら、本当の画像ファイルのようだ)

 ウイルスチェックにも反応がないし、普通の画像ファイルだった。

 (んじゃ、なぜ?ブラウザが突然立ち上がったんだろう?

  そして、気になったのは、ブラウザが立ち上がり、複数のタブが開いたところは、どこにつながったんだ?)

 と、小幡は、そっちのほうに興味を持った。

 再び、Webブラウザを立ち上げ、履歴を見てみた。

 そしたら、以下のような場所に行っていたことが分かった。

 

 https://to.com/

 https://enaming.com/contact-com/

 https://www.use.com/

 https://www.tor.com/

 https://to.com/

 http://www.access.com/

 http://www.17hsz1zlsvaitgewkhwys4nxv8fmxfhfcj.com/

 https://www.theonion.com/

 

 最初は、訳が変わらなかった。

 どのサイトも、ウイルス判定はないし、「http://www.access.com/」と「http://www.17hsz1zlsvaitgewkhwys4nxv8fmxfhfcj.com/」の2つに至っては、接続ができないというエラーが返ってきていた。

 (これは、何を意味しているんだろう?)

 小幡は、しばらく、考え込んだ。

 考え込んでいる最中に、PCの画面にアップデートの再起動のダイアログが表示されたので、再起動を行うことにした。

 

 (あのメールは、何を伝えたかったのだろうか?)

 小幡は、再起動中のPCの画面を見ながら、考えこんだ。


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