第11話 プトプト制作会社

 勇太が停学になる約1週間前、5月25日、株式会社ブロックソフトがあわただしくなっていた。

 ブロックソフトは、人気になっているプトプトの制作会社だ。

 「早くリリースしないと、ユーザーが離れてしまうぞ!」

 ブロックソフトの社長、西島 賢治(にしじま けんじ)が怒鳴った。

 そう、6月2日にプトプトがリリースされる日だった。

 プトプトは、今まで、クローズドβで限定的に公開していたが、運用会社である「プトプト株式会社」が本日のプレスリリースに

 「5月29日(月)、一般リリース」

 と、載せてしまったため、ごたごたが起きている。

 制作会社が知ったのは、プレスリリースが載った後であった。

 つまり、制作会社が知らないところで、運営会社が勝手に、リリース通知を出してしまったのだ。

 まだ、バグがたくさんあるのに、勝手にリリース通知を出して、現場は大混乱。

 急いで、バグチケットの処理を行ったり、デグレードがないかチェックしたり、アプリケーションサーバーに問題がないかチェックしたりで、混沌としていた。

 その中の一人、小幡 和彦(おばた かずひこ)は、ネットワーク関連のプログラムをしていた。

 ネットワーク関連のプログラムとは、スマートフォンのアプリとアプリのサーバーをつなげるところの部分である。

 一番重要で一番地味なところだ。

 正常な通信はもちろん、サーバーとアプリのデータの整合性が取れていないとエラーの時の処理、サーバーダウン時の処理、改造データ(チート)の処理等、地味だが、ここの部分がちゃんとしていないと、ゲームが破綻してしまう。

 ゲームのデザインとか動作のプログラムには、人がたくさんいるのに、ネットワーク部分を作っているのは、小幡だけであった。

 ……何で俺だけ……

 小幡は、そう思いながら、次々くるバグチケットを捌ける作業を行っていた。

 バグに対する対処を行い、単体で試験を行い、それを、結合部隊に渡し……その繰り返しだった。

 もう、大量にあるバグチケットを見て、これは間に合わないと思った小幡は、表面上だけうまくいくように取り繕い、デグレード試験は行わなかった。

 そんなことが、5月29日の午前中まで続いた。

 そして、5月29日の16時、プトプトが公開された。

 仮想通貨の人気や、キャラの人気、そして、メッセージ機能までついて、あっという間にアプリランキングの上位になった。

 

 一息ついた小幡は、プトプトをプレイしてみて思った。

 

 (思ったより、よくできているではないか)

 

 かわいいキャラ、ゲーム性、メッセージ機能、見た目は、ちゃんとできているように見えた。

 しばらくプレイしていると、あることに気がついた。

 招待コード入力欄に、開発者しか知らないコードを入れると、デバックモードが起動できてしまうのだ。

 デバックモードは、開発者用のモードで、様々なデータや通信の中身を見ることができるモードだ。

 主に、テストを行うときに、使用される。

 

 (まさか、このモードに入れるとは、ダウンロードしたのは、開発者版なのか?)

 

 と小幡は、アプリストアを確認したが、正規にダウンロードした、アプリであることを確認した。

 

 (これは、報告すべきことなのか……いや、ここは、俺の管轄ではないし、何よりも、最終ビルドを行った人の責任だ。

  あと、これを知っている一般人はいないはずだ。このままにしておこう)

 

 小幡は、そう思い、会社の机の下で寝袋に入り、眠りにつくのであった。

 

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