第8話 トモダチ?
「は?とはなんですか失礼ですね!」
頬を膨らませてぷんすか怒っている春宮さんから視線を上へとやって考えを巡らせる。
「いや……つい、口が勝手に」
そもそも友達ってこんな簡単になるものなのか?なりましょうといってなれるのなら俺にだって友達くらいできているはずだ。
「まったくもう」
春宮さんはまだ怒っているようだったが、はぁと呆れたようなため息を吐いた。
「こういうのはきっかけと勢いが大事なんですよ?それにただの部活仲間なんて寂しいじゃないですか」
「きっかけと勢いか……」
それは俺にきっと足りなかったもの。自分から作ろうとしなかったこと。春宮さんの言葉になんとなく納得してしまっていた。
「そうです。きっかけと勢いですよ!特にきっかけは大事です。逃したらもう捕まえられないですよ」
「なんか虫取りみたいですね」
「そうですねー!ちょうちょとかトンボとか!小学生の頃は私も虫取りとかしてたんですよ?トンボが留まっているときに指回したりして。あれって本当に目が回ってるんですかね?すぐ逃げちゃってましたし。……はっ!危なかった!もー、話を逸らさないでくださいよ」
「いや、逸らしたの春宮さんなんですけど」
確かに振ったのは俺だけども。意外と活発な子だったんだな。
俺のせいにしてくる春宮さんにつっこみを入れつつ俺は割と真剣に考えていた。
こういう軽いノリ(こういう表現をしてしまっていいのかわからないが)で友達になってしまうことは簡単だ。
けど、それって本当に友達なのか?もちろん春宮さんの言っていることも正しい。きっかけは大事だ。
こんな面倒くさいことをぐだぐだと考えて、
「そうですね。それに、青春部ですし」
春宮さんは一瞬キョトンとなってすぐにぱあっと笑顔になった。
話を戻したから驚いたのだろう。俺が考えている間も「そういうことをしてるから友達が出来ないんですよ」とか説教じみたことを言ってきていた。余計なお世話だよ。
「そうですそうです。せっかくの青春部ですからね!」
とはいったものの。
「友達って具体的に何をするんですかね?」
「さあ?」
「さあって……俺はともかく春宮さんは――」
友達たくさんいるんじゃないですか?と聞こうとしてはっとした。思い出したのだ。青春部の加入条件。
御崎先生に認められた人じゃないと青春部には入部できないと春宮さんは言っていたし、青春を謳歌できなさそうな人たちが集まるとも言っていた。つまりは……春宮さんも俺と同じく……。
「あの、もしかしなくても春宮さん、友達いないですよね?」
「まあ、どこからどこまでを友達というかですよね。休み時間に少し会話する人も含むのであれば――」
これは……。
「あー、その言葉で春宮さんに友達がいないことがわかりました」
「四葉くんに言われたくないんですけど」
春宮さんはジト目で俺を見てくる。
かわいい子にこんな風に見られるのも悪くないもんだ。俺は少しの間春宮さんの不機嫌そうな顔を楽しんだ後、すいませんでしたと謝った。
春宮さんは「別に怒ってないですー」と怒っていたけど。本気で怒っていないのは俺でもわかる。
こういうのが友達なんだろうか。
「そうだ」
春宮さんは何か思いついたように立ち上がると、「んー」とか「あー」とか言いながら何面相もした後決心したように俺の方を向いた。
「友達というからには敬語を使うのもやめて……その……名前で呼び合いませんか?」
「あー、いや、敬語をやめるのは賛成ですけど……名前ですか」
名前呼び。勝手なイメージだけれど、同性の友達とか、幼馴染とか恋人とか関係の深い、距離の近い人同士でするものじゃないのか。
仲良くなるという点では賛成っちゃ賛成だけど。
「う、うん……」
「えーっと……恥ずかしくないですか?」
「恥ずかしい」
少し頬を赤らめて春宮さんは言う。
そういう顔をするのはやめてほしい。こっちまで顔が赤くなってしまう。
「ですよね。じゃあ敬語はやめて、名前はもう少ししたらでいいんじゃ――よくない?」
思わず敬語を使いそうになってしまった。いや、なんだよこの初々しいカップルみたいなのは。そう自分で自分につっこみを入れてあまり変に意識しないようにする。
「そ、そうだね!そうしよっか」
「あ、でもあだ名とかはいいかも」
俺がそう言うと春宮さんは「おー」とかなんとか言って考え始めた。
どうやらあだ名を考える流れらしい。自分から言ったとはいえあだ名を考えるのって意外と難しいな。
はるとかさくぽんとかみやみやとか変なあだ名ばかり思い浮かんだので考えるのをやめた。何だよさくぽんって新しいポン酢か?
「きょうとかどうですか?」
目を輝かせながら聞いてくる。おそらくは景をきょうと読んだだけだろう。
「あーいいんじゃない?」
「ほんと?やった、じゃあ今から
「はいよ」
春宮さんはニコニコしながら
そんなにいわれると照れるんですけど。
「景は私のあだ名考えてくれた?」
「い、一応考えたんだけどダメだな。変なあだ名ばっか浮かんでくるよ。だから申し訳ないけど俺は春宮さんのままかな」
「ううん。大丈夫だよ」
春宮さんは首を横に振りそう言った。そのまま立ち上がると、バッグが置いてあるところまで歩いて行き、
「そろそろ帰ろうか」
と言った。
時計を見ると五時を回ろうとしていた。
青春部(仮) 長門佑 @watka_yu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。青春部(仮)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます