変な話

@deep_time

ポケット、ケポット、トッポケト

子供の頃、オオカミがテレビに映っている夢を見たことを鮮明に覚えている。夢は覚めたら忘れてしまうと言うけれど、覚めても忘れない夢はきっと大切でどこかでふと思い出し、また次に繋ぐためのものなのだろう。


私の昔の夢は海賊になることだった。姉が読んでいた「かいぞくポケット」と言う本の影響である。本を開くと海賊船の全体図が乗っていて、いつか私もこの船に乗ることができるんだとそう考えていた。

「ポケット、ケポット、トッポケト」これは新たな道を切り開く魔法の呪文。この呪文は身動きの取れない状況を一気に逆転させて数々のトラブルをちょちょいと解決することができるのだ。身動きの取れないもどかしい事が多い私はとてもこの魔法の呪文が欲しい。

風邪の日や、辛いことのあった日などに金縛りにあうことがあるが、あれは極度のストレスから来る筋肉の硬直だと言う。金縛りの前兆は、なんでもない夢がいきなり恐怖に感じてそこからどんどん形を持ったストレスが迫ってくる感覚が多い気がする。夢が体に干渉してくる瞬間、この時は不思議と抱き枕などを抱きしめている感覚が消えて独りぼっちになる。もし生も死も、初めも最後もこの金縛りだと考えたら、私たちは今、中間にいて夢の途中なのである。どうして中間にいて地平線を見てしまうのだろう。不安、好奇心、様々な要素があるからなのかもしれないが、これは人間に備わった本能の一つだと考えるのが妥当なのではないか。うーん、深いね....。


生と死の真っ最中の私たちは、今晩も夢をみる。記憶の奥にある誰かや何かや誰かを引っ張り出してたたき起こす。覚めてみた時、好きな人や嫌いな人、二度と会えない人に会った夢を思い出して泣いたり笑ったりするのだ。あの時ああしていれば、あの人は元気だろうか、と様々な思いが頭を2回3回と旋回して、気付けばどうしてこんなに感情が震えているのか分からないまま誰かを忘れる。無意識の中で「ポケット、ケポット、トッポケト」を唱えているのだ。明日、目が覚めた時、終日その感情が消えずにずっと残っている。あっ、ご飯食べなきゃ。あっ、遅刻しちゃう。そんな時でも見えない夢が感情を揺さぶり続ける。それはそのうち思い出になり、思い出をまた夢が引っ張り出して叩き起こすのだ。夢と言う海賊船が私たち海賊を乗せてどこまでもどこまでも進み続ける。さよならの時、沈む海賊船を捨てることなく海賊は共に地平線へと静かに消えていく。

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