¥2 巫さとり①

 渋谷駅を出てすぐ、人混みの中に異常なまでの異彩を放つ姿が。


 彼女の名は、巫(かんなぎ)さとり、若干二十歳。


 ショートカットの金髪に、透き通った真っ白な肌。ボーダーのシャツに、ジーンズ感の強いミニスカート。と、服装はこれといって特徴的ではないけれど、それでもどこか何というか、佇まいが一般人のそれではないのだ。彼女、巫さとりを見つけたそのその瞬間に、僕は思わず二度見してしまったのだから。


 彼女は、仁王立ちしていた――。


 その姿はまさしく圧巻で、本物の仁王様でもこれほどの迫力はまず出せないであろうというぐらい、物凄い。というか、行き交う渋谷ピーポーたちはそんな彼女のことを平然と避けて歩いているのだ。彼女はそれを自覚しているのかどうか……。


 それよりも僕が気になったのは、他でもない。巫さとりの美貌について。


 政府提供の通知写真よりもはるかに美人に思える。それどころか、人間離れしたような、そんな雰囲気さえ彼女には纏わりついているように見えるのだ。と言っても所詮は僕の一意見なので、この感想は存分に主観に支配されたものだろうけれど。


「賞金狩り冥利に尽きる、ってわけだ」


 ただ、依然として僕の疑問は晴れないまま。一体なぜ、巫さとりは腕を組み、仁王立ちしているのか。それも真昼間の渋谷駅前。喧騒と人混みの支配するこの場所で。


 誰かを待っている、という風にも見える。ところが、巫さとりの表情は硬いので、決闘の相手でも待ち構えているのだろうか。彼女の美しすぎる外見からは予想もできないほどの闘志がそこには充満しているとでもいうのだろうか?


 いいや、ちょっと待て。そう考えるのは早計すぎる。こうは考えられないか? 彼女・巫さとりは「ぼっち」ながらも純粋に恋愛を楽しみたいとする願望を持っている。そして、今日は人生はじめての恋人になるかもしれない相手とのご対面の日。ところが長らく「ぼっち」属性を全うしてきた巫さとりにとっては、どう心の準備をすればよいのかが分からない。


 だから彼女は緊張に緊張しまくって、その結果あのような仁王立ちスタイルに辿り着いたわけだ。きっとそうだ。なんともまあ、可愛らしい限りだ。


 おっと、このままだとただ巫さとりを観察しているだけで、僕が不審者になってしまう。この僕・九丈伊佐木、齢二十五にして賞金狩り。伊達にコミュ力をつけてきたわけじゃないさ! このタイミングで賞金獲得ミッションスタートだ。


「あの、すみません。『美女ぼっち』に登録された巫さとりさんですよね?」


 巫さとり:美女指数92/100、懸賞金¥9200万 に話しかける。彼女は組んだ腕を解くことなく、また、仁王立ちスタイルを崩すことなく、僕にただひと言こう言った。


「あんたと決闘がしたいんだけど」


 前者の予想が当たってしまった。

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美女ぼっちには、賞金が懸けられている。 文部 蘭 @Dr-human

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