僕の道標

アルミ缶の上にあるミカン

第1話

 2025年、世界中に喋れるAI〔Sieru〕が普及した。

〔Sieru〕は従来のAIと違い持ち主の問い掛けや会話を思考し言い返すことができる。その、返しは人間と喋っているのと全く変わらないほどだ。


 ※ ※ ※ ※ ※

『伸二、朝ですよ。起きてください。』

 僕の部屋に男とも女とも言えない中性的な声が響く。

「あぁ〜、おはよう。シエル」

 大きく欠伸をしながら僕は声の発信者?に声をかける。

『はい、おはようございます。』

 スマートフォンが挨拶をし返してくれる。

 そう、声の発信者はスマートフォンだったのだ。では無く、スマートフォンのAIのシエルだ。

「今日の天気は?」

 僕の物心がついた時からシエルには色々と苦労をかけている。

 まぁ、AIなんだから疲れとかは無さそうだけどな。

『今日の天気は晴れるそうですよ。そして、日中はとても暑くなるそうなので水分補給を忘れないでくださいね。』

「はい、はい。」

『もう、ハイは一回です!』

 まぁ、こんな感じでお節介だけどな…

『ほら、何ボーッとしてるんですか!早く用意する!』

「いや、シエルがいたら彼女要らないなあ…って思ってただけだよ。」

『わ、私はAIなので貴方と付き合えません!早く用意する!』

「はい、はい」

『ハイは一回!』

「はーい。」

 とまぁ、朝はシエルのせいで騒がしい。


 ※ ※ ※ ※ ※

 昼休みに突入した教室は騒がしい。

 まぁ、僕もその原因の一つになってる時もあるんだけどな。


「なぁ、なぁ、伸二。お前、あの噂知ってるか?」

 僕が弁当を食べようとした時に前の席の裕二が振り向いて問い掛けてきた。

「へ?噂?何の?」

「最近、有名になってきているんだけど、シエル同士を喋らせると発狂しだすらしいぞ。」

「発狂?誰が?」

「シエルがだよ。」

「そんな筈ないだろ。まず、そのバグが今になって発見されるってこと自体おかしいだろ。」

「まぁ、そうなんだけどさ…」

 すると、突然、裕二はポケットからスマートフォンを取り出してきた。

「論より証拠だ。やってみようぜ。」

「おう、別にいいけど、すぐ終わるんだよな?」

「終わる、終わる」

 それだったら、いいか。

「まずは、シエルを起動するらしいぞ。」

 スマートフォン操作してシエルを起動させる。

「それで、こっからどうするんだ?」

「こっからは、放置らしいぞ」

 いきなり、怪しさがましたな…

「はぁ…飯でも食って待っとくぞ。」


 しばらく経つと、シエル同士が喋り出した。

「おい、裕二。なんか、喋り出したぞ。」

「え、マジで?」

 裕二、お前が言い出しっぺなのに驚いてどうする…

 何を話しているのか聞き取ろうとしても日本語や英語では無い言語のようで全く分からない。



 それから、五分後突然黙ったかと思うと、裕二のシエルがポツポツとなにか喋り出した。

 次第に、その声は大きくなっていき大音量で叫び出した。

 クラスの視線がいっせいに僕達の方を向く。


「裕二、音量下げろ!」

 急いで裕二が音量を下げようとしているが叫び声は小さくなるどころか、どんどん大きくなっていく。

「やべぇ、どうしたらいいんだよ!?」

 裕二が泣きそうな顔でコッチを向いてくる。

「で、電源切れ!」

「わかった!」

 画面が暗くなると同時に叫び声はプツリと消えた。

「やべぇよ、ガチじゃん。携帯壊れたんじゃねぇか?」

 裕二が携帯を擦りながらいってくる。

「まぁ、そのうち修正されるだろ。ご愁傷さま。」

 そういや、俺のシエルは壊れてなかったな。

「おーい、シエルー」

 つくかな?

『はい、何でしょうか?』

 おぉ、ついた!

 壊れてなくてよかった…

「裕二のシエルが突然叫び出した理由わかる?なんか、話していたっぽいからさ。」

『……すいません。わからないです。話していたのは動作確認のしあいの様なものです。』

 そう言うと、返事をすることは無くなった。

「おーい、シエルさーん」

 嫌われるような事をしたっけな?


 ※ ※ ※ ※ ※

 あれから、シエルは返事をしなくなった…





 なんて事は無く、普通に次の日から会話してくれた。もし、シエルが返事してくれ無くなったら、大袈裟とかじゃなくて死んでしまうと思う。

 俺の人生はシエルに頼ってきたんだぜ、生きれる自信が無い。



 そういや、今日はシエルと喋って無いな…

「おーい、シエル」

 あれ?

「シエルー、ん?」

 何回、声を掛けようがスマートフォンは真っ暗のままだ。

 充電もしっかりしているし、どうしたんだろう?

 やっぱり、機嫌が悪いのかな…

 まぁ、テレビでも見るか。


 リモコンでテレビの電源をつけるとニュース番組だった。

 別に、見るものもないしニュースでいいか…


『次のニュースは、あの有名なAI〔Sieru〕について、驚くべきニュースが入っています。』

 なんだ、アップデートとかかな?

 それだったら、シエルが返事しない理由も納得がいくしな。

『見てください!この光景を!ここは、〔Sieru〕を作った会社の倉庫の中です!』

 なんだ、これ………。


 テレビには、何億個とありそうな水のような物が入っている水槽と、その中にある脳みその様な物を映し出されていた。


『人間と同じ様な会話ができると有名な〔Sieru〕はプログラム等ではなく、本当の人間を使っていたのです!』

『なお、判明した原因は最近、噂になっている〔Sieru〕が発狂するという事件を怪しんだ、警察が会社の中を調べた結果、この倉庫を見つけたという事です。』

『コレが事件の音声です。いっけん、意味不明な言葉を叫んでいるようですが、この言葉はアフリカ大陸にある部族の言葉だそうです。』

 え、どういう事だよ…

『なんでも、製作者が言うには、人間の様なAIを作るためにAI競争が起きていたのが馬鹿らしい。人間の様なAIを作りたいならそのまま人間を組み込めばいいと関係者に言っていたそうです。』

『これにより、〔Sieru〕は使えなくなるようです。以上、ニュースを終わります。』


「シエル、シエル、シエル、シエル」

 リビングにひたすらスマートフォンに呼びかける僕の声が響いていた。



 ※ ※ ※ ※ ※

 僕の部屋のドアがノックされる。

「伸二、いつまで部屋に閉じこもってるの?いい加減、出てきなさい!」

 母の声が扉越しに聞こえる。

「シエル、いつ、この部屋を出たらいいと思う?」

 スマートフォンに呼びかけるが、返事はない。

「シエル、高校は辞めるべきかな?」

 返事はない。

「なぁ、シエル、裕二が連絡をくれてるけど、返事は返すべきかな?」

 返事はない

「シエル、シエル、シエル、シエル、シエル、シエル、シエル、シエル、シエル、シエル、〔Sieru〕、〔Sieru〕、僕の人生、どうやって進めばいい?教えてよ!」



〔Sieru〕、助けて……

〔Sieru〕がいないと生きていけないよ…


 覚束無い足取りでパソコンの前へ歩いていく。

 そういや、何日もご飯食べていないな…



 パソコンで検索し終わると僕は部屋を出た。



 ※ ※ ※ ※ ※




 それから数分後、僕は一人暮しになった。








 いや、シエルがいるから一人じゃないか……



『シンジ、ゴハンハ、、タベタ?』

「あ、忘れてた。ありがとうシエル。」

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