エピローグ
『ロビン』の運転で寮に戻ると、夜半も近かった。だけど玄関には小さな人だかりが出来ていて、それは紫雁ちゃんのお葬式で見た面子だった。『アヤ』『ヨウ』『ヨル』『ナル』――『ナル』君は普段は学校の先生で、借り上げの寮に住んでいるから、バイクでそこから来たんだろう。
『アヤ』――姫が首尾を問うように視線を向けて来た。珍しくその目には心配が浮かんでいて、いつもの鋭さをそう感じない。ふるふる、首を横に振って、私は彼らに伝える。
「紫雁ちゃんの死体は液体窒素で保存されてた。ほかの死体も。犯人の烏丸
「そうか……」
「カリちゃん、烏丸先輩」
「う、うぇえぇぇ」
泣き出す『ヨウ』と『ヨル』は互いを支え合うように、口唇を噛んで堪えるようにするのは『ナル』。『アヤ』は寂しそうにまつ毛の影を月光に落としていた。そして後ろから、声が響く。
「二人は駄目だったか。嫌な仕事をさせたな、『ジェーン』に『ロビン』」
『キョウ』に支えられ、歩いて来たのは『社長』だった。
相変わらず爪も髪も伸びていないこの人は、月に一度、一日しか起きていられない身体らしい。化け物屋敷の寮に慣れていると、そのぐらい大したことなくも感じられるけれど、その二十四時間の間に一か月分の情報を摂取して最適解を出すのは、中学生ぐらいにしか見えないその身体を見ると、結構なギャップだった。
「新聞のお悔やみ欄を見てな。まさかと思って二人に行ってもらったんだが、ここまでの事件となると世間にも隠し立てできない。『セノオ』に少し引っ被って貰うしかないが――『ジェーン』」
「は、はい?」
「お前、ここを出て事務所でも作る気はないかい?」
「事務所?」
「雑務は『ロビン』に任せて、まあやる事は情報収集と僕の依頼と、変わらない。ただ『名探偵』としてそこにいてくれれば良い。いざとなったらお前の名前で世間が黙るような『名探偵』に――勿論事務所の家賃は僕が出す。どうだい? 外に出るのも、なかなか良い物だよ。少なくとも僕は今、結構気持ち良い」
それは結構魅力的な誘いだった。
だけど――
「いいえ――ここに残ります」
「そうか」
「今はここが、私の帰る場所ですから」
苦笑いしながらおさげを揺らす。社長は笑って、皆少しずつ安堵したようだった。『ロビン』、柚香先輩はまだ銃をいじっている。過去に三回しか会ってない相手なんて、存外記憶に残らないんだな、なんて思った。まあ私は三つ編みもそのままだから、街でよく同期に会うのだけれど、今何してるの、と聞かれると曖昧にならざるを得ない。だから事務所を持つことで自分が『探偵』を名乗る資格を得てしまうのは怖かった。だから私はまだここの、怪しげな社員で良い。
そうすれば責任は全部『社長』の物になるから、なんて、腹黒くも後ろ暗いことを考えているのだけれど。
「……『ナル』」
「ん」
『ナル』は『社長』をひょいと横抱きにする。この二人の関係は、正直よく解らない。社長が恋人として傍らに置くのはいつも『スマイル』なのに、肝心な時には『ナル』に任せるのだ。よく解らないけれど、多分、そこは『探偵』として近付くべき謎じゃないんだろう。
「ありがとうな、『ジェーン』」
「え?」
「ここを『帰る場所』だと言ってくれて」
珍しく笑った『ナル』は、言って駐車場の方に消えて行った。
単にここにしかいられないだけの、無能力者の私は。
それでもこの魑魅魍魎が跋扈する、この場所が好きなんだろう。
皆で罪を分割できる、から。
――『探偵』なんて、私は、大嫌いだ。
クリムゾンは貴女の為に ぜろ @illness24
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