4-3 素直
部屋を飛び出したかばんは辺りを見渡し何かニホンオオカミが向かった場所に通づる物がないかを探した。
あたりは一面森で道のようなものはなく、進む方向を間違えたりしてしまったらニホンオオカミの元に着くどころかこの場所に戻れるかすら危うい。
ニホンオオカミが飛び出してかなりという程ではないが時間が経ってしまっているし、誰かに聞こうともかばんはそんなことを出来る身ではない。
「ニホンオオカミさん…どこに行ったんだろう…」
『カバン、足跡ガナイカ探シテミテ。見ツケタラボクニ見セテ欲シイ』
「え、足跡ですか?ちょっと待っててください」
かばんはラッキービーストに言われた通り足跡がどこかにないかと地面に顔を近づける。
よく見ると出口から真っ直ぐにへこみが沢山あるのを見つけた。
『カバン、ボクノ液晶ヲソノヘコミノ所ニ近ヅケテ』
かばんはまたラッキービーストに言われた通りそのへこみに近づけさせると『解析中、解析中…』と電子音を出しながらなにか光を出した。
暫くするとラッキービーストは光を出すのをやめ、『ワカッタヨ』と言った。
「本当ですか!?じゃあどの方向にニホンオオカミさんが…」
『カバン、キミハドンナ過去ガアッテモ、自分ノコトヲ嫌イニナラナイッテ思ウ?』
「え、ラッキーさん、突然何を…」
ラッキービーストにど声向かえばいいのか聞こうとした途端、ラッキービーストは妙な質問をした。
『モシモコノ質問ニスグニ答エラレナイナラ、ボクハココカラ先ニハ行カナイコトヲオススメスルヨ』
「ラッキーさん…?」
『……ボクノ使命ハ、オ客様ノ安全ヲ守ル事。ダカラボクハ、カバンニ危険ガ及ブノハ避ケタインダ。「ニホンオオカミ」ハ、フレンズ化スル前モカナリ強イ動物ダッタンダ。サッキノ様子カラ、ニホンオオカミガ攻撃シテコナイトモ限ラナイ。ソレデモ、キミハ…』
ラッキービーストは止めはしていないが、かばんがニホンオオカミの元に行くことを避けたがっている。それはやはりパークガイドだったゆえにヒトと動物の関係を知っているからこそ、かばんにもしもの事がないよう必死なのだ。
だが、かばんは…
「ラッキーさんが言いたいことはわかります。でも僕は『ヒト』として生まれたからにはちゃんと向き合いたい。自分の悪いことから逃げてちゃダメなんだと思うんです。だから、僕のことをちゃんと話して、僕のことを知ってもらえれば、ニホンオオカミさんも僕のことをきっと信じてくれると思うんですそれにラッキーさん、僕に言ってくれたじゃないですか。僕を暫定パークガイドにするって。僕はお客さんじゃない。だからちゃんと自分のことも知りたいんだ」
『カバン…』
もうあの時の弱い自分じゃない。
知らないからこそ自分のことはなんでも知りたい。
きっとそれが勇気となってかばんを突き動かしている。
『ワカッタヨ…。一番新シイ足跡ハ、ココカラ少シ右ニ曲ガッタ方ニ向カッタミタイダヨ』
「少し右…この方向にニホンオオカミさんが…」
かばんは再度方向を確認したあと、その方向にまっすぐ走り出した。
足跡を辿り、時よりラッキービーストに足跡の向きを確認してもらいながらも先に進むかばん。
森はどんどん深くなり、日差しが遮られ暗くなっていく。
そんなことも気にせずかばんは走り続ける。その先にニホンオオカミがいると信じて。
どれだけ走ったのだろうか。空も見えないため時間がわからない。
流石に走り続けたため息も切れ、足取りも遅くなる。
少し休憩するために呼吸を整え前を見た時だった。
(ニホンオオカミさんっ…!!)
そこには見覚えのある人影があった。
その影は木に寄りかかり項垂れた様子でそこにいた。
「ニホンオオカミさん!?」
かばんはすぐにニホンオオカミに近づいた。見たところ呼吸は整っているし怪我の様子もなかった。
無事なのを確認したかばんは安心と走っていた疲れで膝をついた。
「そういえば、ニホンオオカミさん僕のためって言って全然寝てなかったんだっけ…」
かばんはニホンオオカミの様子を見てそう呟いた。
その呟いたことでなのかニホンオオカミが目を覚ました。
焦点があってない目を擦り辺りを見回している。
「……あれ、ここどこだっけ…たしかかばんから逃げたあとにここに…ってかか、かばん!?なんでここに!?もう追いついたっていうの!?」
「あ、ちょっと待ってください!!僕は何もしません!ただ話をしたいんです!」
かばんを見た途端逃げ出そうとするニホンオオカミをかばんは必死に呼び止める。
そう、かばんはニホンオオカミを説得するためにここまで追いかけたのだから。
「な、はなしってなに?ヒトなんて絶滅してしまえって言った私と何を話すっていうの?寧ろそんなこと言う私なんてかばんの敵でしょ?話をしてるうちに殺そうと考えてるわけ?」
「違います!僕はニホンオオカミさんに伝えなきゃいけないことがあるんです!ニホンオオカミさんを殺そうなんて考えてません!」
「そんなのうそだ!!だって私知ってるよ、ヒトは自分の敵だとわかったらどんなことをそ手でも倒すって!今までヒトが何匹もの動物を殺してきたか!そんなことしてきたやつに私の気持ちなんてわかるわけない!!」
全身を震わせて叫ぶニホンオオカミ。
その言葉に嘘はない。
自分自身がそうじゃないとしてもそれをやってしまったという事実は変わらない。
それでも、ヒトとしてつたえないといけない。
「ニホンオオカミさんがひとりぼっちでさみしいということ、僕にもわかります。僕もひとりぼっちですから。」
「え?何言ってるの?ヒトは絶滅してないでしょ?全然違う」
「僕もまだヒトは絶滅してないと信じてます。でも僕が生まれたジャパリパークでは、ヒトは絶滅したと伝えられていました。」
「えっ…?」
「いまは自分以外の人を探して旅をしてます。でも今もヒトがどこかにいるという確証は見つかっていません…」
「絶滅したか分からないけど仲間は居ない、っていうこと、なの?」
「はい、だからニホンオオカミさんの気持ち、全部わかるわけではないですけど…少なくとも寂しかったっていうことは、わかりっます」
かばんはそう言い終えると、ニホンオオカミの手を握りしめた。
「ニホンオオカミさん。今はまだ僕のことが嫌いでも、いつか好きになってくれたらいいなって思ってます。一緒にいればひとりぼっちじゃない。僕の友達に、そう教わったので。僕はニホンオオカミが大好きですよ」
かばんは笑顔で語りかける。
ここではひとりじゃない。
自分もしてもらったから、今度は自分がしてあげる番だ。
「かばん、ごめんね、ごめんね!!私ずっと怖かった!いつも一緒にいてくれた子が近くにいなくなっただけでこんなに怖いなんて思わなかった!ずっとなんて言わない、少しの間だけでもいい!私と友達になってほしい…。さっきはちゃんと言ってなかったけど今回は本気。かばん、お願い…」
ニホンオオカミは握っていた手を強く握り返した。
かばんもまた強く握り返す。
「よろしくお願いします。ニホンオオカミさん!」
こうしてかばんとニホンオオカミは正真正銘の『フレンズ』になった…。
絶滅のバイアス 七尾狐 @nanao1068
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