第9話
この話が奇妙な終着点にたどり着くには、それからもう少々の時間が必要となる。
それはもう冬が始まるころだった。件のプロジェクトが怖いくらいにスムーズにすすみ、とりあえずひと段落したころに、増田は
「ふうん、そりゃ不思議な話だな」
「そう思うだろ?」
増田はこの話を他の誰にもしていなかった。池端に話したのは、この話のそもそもの始まりが彼だと言うこともあったが、それよりやはり、それくらいには気の置けない友ではあったのだ。
池端はしばらく考えながら、つまみの枝豆をぽりぽりやっていた。そして、ぽつりとつぶやいた。
「もしかしたら、神様だったのかもしれないな」
「か、かみさま?」
急に池端が妙な事を言い出すものだから、増田は思わず噴き出した。そりゃ確かに、ある種オカルトな話ではあったかもしれないが、まさか神様なんていう単語が出るとは思ってもみなかった。
「いやさ、もともとあの祭り、そういう祭りなんだよ。子供がお面をつけてるだろ。あれって、神様が混じって遊んでるんだと。あそこの神様は、寂しがり屋の神様で、誰かと遊びたいけど神様だってバレちゃまずいから、お祭りの日にはお面をつけてこっそり子供達と遊んでたんだってさ」
それが、あの祭りの始まりなのだと言う。子供達にお菓子をあげるのも、もともとは神へのそなえものの意味があったのだとか。
「ほんとかよ、それ」
「俺がじいちゃんに聞いたうちではそうだな。本当に本当のところは知らん。だいたいお前、あの神社の名前知ってるか?」
「いや、知らない」
「
ああー、と増田はため息をついてがっくりとテーブルに突っ伏した。突拍子の無い話のように思えたが、なるほど、それを聞いてしまうと、これほど納得のいく答えもないような気がした。
「その様子じゃ本当に知らなかったみたいだな。俺はてっきりミオとか言う名前も含めて、お前が考えた作り話かと思ったんだが、そうでもないみたいだしな」
そして池端は続けた。
「俺が子供のころくらいまではさ、けっこうあったんだよ。子供だけで遊んでると、いつのまにか、知らない子が混じってるって話。なんかすごく明るくてたのしい子でさ。きっと誰かの友達なんだろうなー、って思って遊ぶんだけど、後で聞いてみると、誰も知らないんだよな。うちの親とかもおんなじ様な話してた。でも、最近の子供はそんなこと無いってな。きっと神様も含めて、みんなゲームに夢中なんだよ」
なるほどな、と思う。
ゲームの世界では、誰もがキャラクターという仮面をかぶっている。それが一体誰なのか、誰も知らないし知る必要もない。その中に人以外の何かが混ざっていても、きっと誰も気付かないのだ。仮面をかぶれば、神様も人も、誰もが平等だ。きっと、三尾坂の寂しがり屋の神様にとっては、そこは夢のような世界だったに違いない。
マスカレイドパラダイス。仮面の楽園。まさしく、そうだったのだろう。
「ま、貴重な体験だったってことでさ。飲もうぜ、今日は」
「ああ、分かったよ付きあうよ」
「どうせ、来年も祭りにいくんだろ?」
「……今度はアメ玉どっちゃり持ってってやる」
そりゃいいや、と池端は豪快に笑った。二人はジョッキを鳴らして乾杯した。
今月の頭に、マスカレイドシリーズの最新作が発表されたばかりだった。発売日は、来年初夏を予定しているそうだ。
来年の祭りには、山ほどのお菓子と、そして発売されたばかりのゲームを持っていこう。
願わくば、ゲーム好きの神様と、もう一度冒険の旅に出たいから。
【終】
Thank you for playing! ~遊んでくれてありがとう~ たはしかよきあし @ikaaki118
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