魔女集会で会いましょう

Re:over

満月の下、炎の灯る場所で。


 鳥の羽ばたく音が聞こえ、音の鳴る方向に目を向けると窓から伝書鳩が入ってきていた。夕日の中を羽ばたいてきた伝書鳩は一枚の紙を持っており、私はその紙を受け取って広げ、読んでみる。


 内容は魔女集会のものであった。私たち魔女は1年に一度集会を持つ習慣があり、その集会のお知らせだ。


 いつもより3ヶ月も早いお知らせに多少戸惑いながらも、集会へ行く準備を始めた。なんでも、急遽決めなければならないことができたらしい。準備が終わる頃には時間も遅くなっていて、辺りは真っ暗になっていた。街灯1つない森の奥に家があるため、ランプを持っていくことにする。


 魔法の杖を持ち出せば、魔力に引き寄せられて魔物と出くわす可能性が跳ね上がる。こんな夜中に魔物と出会えば生きて帰れるかわからない。


 杖も無いので集合場所まで歩いた。木と木の間から月の光が差し込む。今日は満月であった。




 人間は己の私利私欲のために争い、奪い、殺す。そのせいで戦争が起こったのは20年前の今日みたいな満月がよく見える天気の良い日であった。私は遠出をしており、その帰り道で赤く燃え上がる家を目の当たりにする。その側で泣いている子供がいた。


 燃え盛る炎の周りでは睨み合いが続いており、この子を助けようとする人なんていない。むしろ、鬱陶しく思っている人が多かっただろう。


 私はこの子が可愛いそうに思え、安全な場所に連れて行くことにした。しかし、私は魔女で、人間から忌み嫌われている。それ故にこの子供も直接人間に渡すということは、この子の死を意味する。なので、比較的安全そうな村にこっそり置いて、無事を祈った。




 約30分くらいで目的地に到着した。集合場所である宿はあの日見た光景にそっくりであった。風が吹くたびに揺れ動くそれは家という概念を壊す。周りの家も同じような格好になっていて、中には原型を留めていないものもある。


「な、何これ......」


 さすがに動揺してしまい、一歩下がった。仲間はどうなっているのか。嫌な予感を振り払って村の中を歩いてみる。ところどころに亡骸が落ちていて、その中のほとんどの目は鋭利なもので刺された形跡があった。


「ここは危ないので、すぐに逃げた方がいいですよ」


 後ろから声がした。振り返ってみると、そこには背の高い男性がいる。その男性の瞳は真っ黒。人間である証拠だ。彼は血の付着した剣を所持していた。


「あなたが私の仲間を殺したのですか?」


 私はとっさに身構え、いつ攻撃されてもいいような体勢になった。


「あれ? もしかして、あなたは......」


 私の顔を見た男性の口が緩んでいき、堅苦しい雰囲気からふわっとしたカッコいい表情が浮かび上がる。


「僕はシンと言います。20年前に僕を助けてくれた魔女ですよね? こんなにも変わらないなんて、正直びっくりしましたよ」


 始めは何を言っているのかわからなかったが、ようやく理解した。彼は20年前に助けてあげた子供だ。


「まさかこんなところで出会えるなんて......。あっ、それよりも早くここから逃げないと――」


「まぁだいたのか。たくさんの返り血を浴び、そのせいで目が真っ赤になったというあの忌々しい魔女が」


「それは単なる偏見です。魔女の特別な能力に怯えた人間が脅威を排除するためだけに作ったホラ話にすぎません」


 中年くらいの男性が私を睨みつけ、剣を構えた。すると、その敵意を塞ぐようにシンが剣を構える。


「お主、魔女の味方につくなんて人間の恥だとは思わぬのか?」


「魔女だって同じ『人』であるのに、それをこうも容易く迫害、虐殺するあなたたちの方が羞恥を知るべきです!」


 シンは剣を縦横斜めに振る。中年の男性はそれを剣で受けたり、避けたりしてなかなかダメージを与えられない。


 私は杖を持っていない以上、戦力にはなれない。ここで首を突っ込んでも邪魔になるだけだ。自分の非力さを恨んだ。


 男性がシンの隙をついて小振りする。それを避けた途端、男性の連続攻撃が繰り広げられ、立場が逆転した。防戦一方のシンは何故かニヤついている。


 男性の重たい一撃がシンの防御体勢を崩し、その隙に男性は剣をシンに向けて振り下ろした。しかし、それは簡単に避けられる。それだけでなく、シンは男性に剣を突き刺すことに成功した。


 そう、彼は体勢が崩れたように見せかけた《・・・・・》のだ。男性は喉に突き刺さった剣を悔しそうに見つめ、力なく倒れた。


「ふぅ......」


「ありがとう。シン」


「どういたしまして。ですが、僕も人を殺したので彼らのやっていることとあまり変わりはない。そう考えると、どうしても感謝されるべきことではないと思うんです」


「そんなこと言わない。私はあなたに助けてもらったんだよ? 感謝して当然だし、あなたが殺したこの人は私たちを殺そうとしてたわけだから、正当防衛だよ」


 私はシンを励ますように言った。彼は気を取り直したようで、軽く微笑んだ。




***




 あの事件は人間が仕組んだもので、集会を偽って魔女を集め、大量に葬る計画だったらしい。それを知ったシンは魔女を助けるために集会場所へ向かったが、少し遅くて一部しか助けられなかったと悔やんでいた。


「僕、あなたに助けてもらったときからあなたのことが好きでした! その......付き合ってくれませんか?」


 事件が片付いた後、私はシンに告白された。私は赤い瞳の可愛い少女に見えるけど、年齢はシンの5倍くらいだ。それでもいいと言ってくれた彼と付き合うことになった。


 2人で人間と魔女を和解させるため、今日もいろんな村を回って魔女という種族の理解を得ようと頑張っている。

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