セントポーリア

@paulia

第1話

私は今、胸が苦しくなって、息が荒くなって、かきむしって払いのけたくなるような恋をしている。金も地位もそれこそ顔や体なんてもってのほか、自分は何に対しても自信を持てず、いつも他の数十歩後ろを着いていくのがやっとだった。それでも、人並みに大学まで卒業させてもらって、そうして今度は、社会の荒波に揉まれては潰されそうになって。


――その日は土砂降りだった。


会社で自分はとんでもないミスを犯し、腰が90度で固定されてしまうかと思うくらい腰を折り続け、こらえきれない思いで駆け込んだ女子トイレで、嗚咽をこらえるのがやっと。


「……さいあく、むり。もうだいぶムリ」


周りの目が怖かった。書類の取り違えによる発注ミス、変更を知らされていたのに、繁忙で処理をしないままで、商品を予約していたお客様に多大な迷惑をかけてしまった。スカート越しに感じる生温い便座、甘ったるさと薬品の混じった芳香剤の匂いが鼻をついて、次から次へと涙がこぼれ出してくる。胸の中は悲しいものでタプタプと揺らいでいて、あと少しでも動かしてしまったら、全部あふれだしてしまいそうで怖かった。


「……まわりの人の方がムリにきまってるね、ふつう……」


退職願いを出すか、退職届にするか。

そこまで考えて、鼻水と涙をのみ込んで、うだうだする頭の中を無理矢理に引き戻した。ひっくひっくとしゃくり上げる社会人の見苦しさといったら、周りが辟易するだろバカ。とか、もっとでかいミスをしたやつだってゴマンといるんだから。世の中お前が思ってるより狭くねぇよ。だとか。固くつむった目の奥が、熱く腫れぼったくなっていくのを押さえてデスクに戻る。



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