夜の回送列車

@blanetnoir

夜、人のまばらな電車のホームで。



残業帰りの疲れきった頭と



ふわふわした空腹だけを抱えて佇む。



花冷えの夜、月もない夜空がただ静か。




不意に、閃光が眼を射る。




轟音と共に、回送列車が走り抜けた。




煌々と明かりが付いたままの車内、空の車両が秒もかからず過ぎ去る、




その最後尾、




居ないはずのそこに、ひとり。




目が、合った。





驚きとともに過ぎ去った電車の後ろ姿を見る。





走り去る背中は既に星のような光の粒のように、レールの先を走り去ってしまった。





いるはずのない、人の姿を見た。




目が合ったその瞬間、鏡を見た感覚を覚えた。




あの中にいたのは、誰だったのか。




闇をひた走る電車に乗る乗客は、




たった一人でどこへ向かっていくのだろう。




ただひとり、走りうる限りのスピードで。





一瞬のことだった。




また静かになったホームに、アナウンスが響く。




電車が来た、ここにいる私は他の乗客と乗合で、鈍行の走りで目的地へ行こう。

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