第3話/シルマの運命・転

 イコーラの街から回収班を呼んできたシルマは、停止したイブツの前で拘束されていた。

 ……拘束と言っても物理的に縄で縛られるとかではなく、回収班のナノ族の技術者のとてつもない速さのイブツうんちくから逃れるタイミングを失っただけなのだが。

 「あの、俺、ルズと合流したいんだけど……」

 「それより見ろこのイブツ!球形だぞ!?ラトリオットの技術者になって長いが、こんな形のイブツは初めて見る!お前が倒したのか?」

 「あ、ハイ。そうです……」

 「そうかそうか!若いのに立派なことだ!どうだったこのイブツ、なにか変な武装とかしていなかったか?」

 「ええと、腕が二本あって、宙に浮いてました」

  そう答えた瞬間、技術者の目が大きく見開かれる。

 「宙に!?浮いていた!?」

 「浮いてましたね」

 「そうかそうか!それは楽しみになってきたぞぅ!」

 ……一体何が楽しみなのか、シルマは疑問だったがそれを質問するとさらに長くなる気がしたのでグッと飲み込む。

 「お前、名前はなんという?」

 「シルマです」

 「シルマか。よし、ではまた連絡する。わしらはこいつらを持って帰るとしよう」

 そういうと回収班は手際よくイブツを回収、撤退していった。


 やっと解放された……。さて、ルズと合流だ。が、その時。

 「あれ?シルマ居たのね。イブツは回収してもらった?」

 ……ルズが戻ってきてしまった。すまんルズ。完全に任せっきりになってしまった……。


 ルズと街に戻る途中。二人で情報を交換する。どうやらルズは、森でイブツの痕跡は発見したものの、肝心のイブツは見つからなかったようで、一旦戻ってきたらしい。後日改めて捜索を行うようだ。

 こちらの情報──獣型から分離した浮遊するイブツやそれとの戦闘──をルズに伝えると、彼女はとても驚いた様子だった。なんでも浮遊型イブツというのは目撃例が極端に少なく、更に討伐されたとなると今までに二、三件ほどしか前例がないという。シルマは運がいいね。とルズは笑顔を浮かべていた。


 程なくして、シルマとルズはラトリオットに帰還し、二人はシェル・アルマギアに報告を行った。シェルは静かに耳を傾けていたが、例に漏れず浮遊型イブツに関しては驚いた様子だった。

 「ふむ……報告ありがとう。後日改めて捜索隊を森に送るとしよう」


 「さて、シルマ。改めてイブツと戦ってどうだった?何か感じるところはあったかな?」

 シェルはシルマにそう問う。

 「俺は……」

 「俺は騎士になりたい。騎士の名誉とかそんなことは関係無く、騎士になって、力を得て、イブツから人々を護りたい」

 シルマはシェルの目を見ながら言葉を紡ぐ。

 「今日ルズの戦いを見て、実際にイブツと戦って思ったんだ。俺はイブツに対して恐怖心を持っている。あの時みたいに圧倒的な力に倒れるかもしれない。それが怖い」

 「でも、ルズは俺に戦いの才能があると言ってくれた。俺自身はそんな自覚は無いけれど……。でも、俺が戦うことによってイブツに苦しめられる人が減るなら、俺は戦う。戦いたい」

 「……ごめん。まだ俺の中で考えが完全にまとまってないや」

 シルマは俯く。イブツは怖い。でも、実際に戦って、勝ったんだ。俺は勝てるんだ。護れるんだ。なら、やるしかないだろ。

 

 「……そうか。わかった。ありがとう。君は本当に勇敢な少年だ」

 「では、我らラトリオットはその申し出を受け入れよう」


 「ようこそシルマ。今日から君はラトリオットの一員だ!」


 

 ──イブツ対策組織ラトリオットには、騎士の他に、様々な人員が存在する。

 クルジオを持ち、数を持ってイブツと戦う一般隊員、倒されたイブツを回収する回収班、イブツを研究しクルジオを作成する技術班などがある。

 騎士になるために一般隊員を経験しなければならない、などといった規則は存在しない。力があると判断されれば即、騎士に任命されることもあるし、一般隊員上がりの騎士も存在する。


 シルマは才能があり、単騎でイブツを倒す実力もあったが、本人の希望で少しの間一般隊員として訓練を積むことになった。


 ──シルマの入隊から3ヶ月が経過する頃、シルマの元にある知らせが届いた。

 「技術班が俺を呼んでいる?」

 「はい。なんでもシルマさんが倒した浮遊するイブツに関して話すことがあるとか」

 ラトリオットの職員が訓練を終えた俺にそう伝えてきた。そういえば回収班の技術者がまた連絡すると言っていたな……。

 「ありがとう。すぐ行くよ」

 入隊してからの3ヶ月間はとても密度が高いものだった。訓練や座学がほぼ毎日詰まっていたし、一般隊員として小隊を組み、比較的弱いイブツを討伐した時もあった。

 研究施設に行くまでの間、シルマはこの3ヶ月を回想する。確実に3ヶ月前の自分より強くなっている。そう思うと少し嬉しかった。

 

 ラトリオットのイブツ研究施設は、最初に入館した所の更に地下、つまり地下二階に存在する。一体どうやってこんな深くに研究施設を作り上げたのかが少し疑問に思っていたが、そんな疑問は多忙な日々に押し流されていたのだった。

 「おお、来たか!」

 「お久しぶりです。ええと、そういえばお名前……。」

 「ああ、名乗って無かったな。わしはガッツ。ここラトリオットで技術者をやっとる」

 「お前が倒したイブツの解析が終わってな、所有権は討伐したお前にある。どうだ?あの浮遊するイブツでクルジオを作らないか?きっと面白いクルジオが作れると思うんだが」

 ガッツと名乗ったハロ族の技術者は、興奮気味にまくし立ててくる。


 ラトリオットでは、討伐されたイブツを解析した後、そのイブツの所有権が定められる。基準は主に、誰が討伐したか、だ。

 「本当ですか!?是非!作りましょう!」

 ガッツからの提案に少し興奮するシルマ。というのも討伐例が極端に少ないという浮遊型イブツの解析がこんなに早く終わるとは思ってなかったからだ。

 「よし!そうと決まれば早速取り掛かろう」

 「完成次第、お前に連絡する。ではな」

 そう言うとガッツは部屋の奥へと消えていった。

 

 俺専用の武器、かぁ……。

 シルマは足取り軽やかに自室へと戻ってきた。

 シルマが希望した一般隊員としての訓練期間の終了まであと少し。タイミングがよければ完成した武器を持って騎士の任命式に出席できるかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、コンコン、とノックの音が耳に届いた。

 一体誰だろう、とシルマが扉を開けるとそこには、大柄なハロ族の男、シェル・アルマギアが立っていた。

 「やあ!シルマくん!突然すまない。今、いいかい?」

 「シェルさん!だいじょうぶですよ。どうしたんですか?」

 シェルを部屋に招き入れる。彼が一歩踏み出すと、彼の喉元の大きな羽が左右に揺れた。

 「少しね、君に伝えたいことがあってね」

 「伝えたいこと、ですか」

 「そう。騎士に任命される者にのみ伝える大切なことだ。具体的には……」

 シェルはシルマと向き合うと、ひと呼吸入れてから口を開く。

 

 「君の騎士任命式でお目にかかるだろうラトリオットのトップのこと、騎士の特別任務のこと、そして……」

 「この世界に存在する<魔法>……<アルマギア>のこと」


 シルマはこの日、この世界……ラトリオの秘密の一端を知る。

 

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ラトリオット/イブツ戦線 rawawo @rawawo

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