犯罪アミューズメントパークのご利用について

ちびまるフォイ

だからこっちは入口だっつてんだろ!!

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犯罪アミューズメントパーク「クローン」


20歳未満の方には入場をお断りしています。

退場時には中での記憶を消します。


同意書に記入を済ませた方のみ、入場をお願いします。

お好きなだけ、滞在してください。

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長々しい同意書に記入してパークに入ると、

パークというよりも全く同じ町ができていた。


「これが本当にクローンなのか? 信じられないな」


自分のいた町とまったく同じ風景が作られている。

触れば確かな実感がある。バーチャルなんかじゃない。


すぐ横をものすごい勢いで車が通りすぎた。


あえて歩道を走り次々に歩行者をはね飛ばしていた。

犯罪アミューズメントパークだけあって、なんでも許されている。


「すごいなぁ」


感心していると、ほかの来場者に撃ち殺された。

衝撃で道路に倒れた後、すぐに立ち上がった。


「破れてもいい服って、そういうことか」


パーク内では倫理観のタガが外れた人間たちがはしゃいでいた。

最初こそ遠慮していた俺もだんだん周りに影響されてめちゃくちゃに楽しんだ。


すっかり満喫したのでパークを出ようとゲートに向かった。


「あ、お客さん。出口はあっちです」

「すみません、間違えました」


パークの出口に向かうと、入口で施された「不死身処理」を抜かれ

中での記憶もすべてきれいに消去された。


「お疲れさまでした。またのご来園をお待ちしています」


自分が何をしていたのか思い出せないが、

体には心地よい疲れと、ストレス発散ができた解放感だけ残っていた。


それからも、バッティングセンターにでも行く感覚でパークへと足を運んだ。


「お客様、こちらは入口になっています」

「ゲートの見た目が似てるんだよ!」


記憶消されるもんだから、毎回ゲートを間違えてしまい

スタッフの人には意図せず顔まで覚えられてしまった。恥ずかしい。


「中で自分が何をやっているかって確認できないんですか」


「パークの規定ですから。退園時には体をきれいに洗ってもらい

 そのうえで記憶を消して日常生活に支障が出ないようにしてるんです」


「支障って……別にそこまでしなくてもいいと思うのになぁ」


記憶消すのはパークに飽きられないようにするための、

がめつい金策のような気もしないでもない。

わかっていても通ってしまうのは現代がストレス社会だからだろうか。


「よし、今日もパーッとストレス発散するぞ!」


なんとなく機嫌が悪い日にパークへ訪れると「臨時休園」の文字。

ゲートの前に貼られている紙を読むと、ゲートが壊れているらしい。


「ええーー……完全に遊ぶ気まんまんだったのに」


辺境のパークまできて手ぶらで帰るなんてわりに合わない。

周りに誰もいないことを確認してから、受付にお金を置いてパークに入った。


壊れているのはゲートなので、中身のパークは問題なく動いていた。


「はははは! 楽しいな!! みんなぶっ壊れろ!!」


建物を壊し、人を殴り、道でおしっこをする。

普段の理性リミッターを外して暴れまわる。

そこそこ恥ずかしいので覆面していてよかった。


ストレス発散の限りを尽くした後でパークを出た。


「いやぁ、楽しかった楽しかった! 記憶残ってる方がいいじゃん!」


たしか出口のゲートが壊れていとかだったが、

むしろパーク内での記憶がある方がより解放感を味わえる。

「やってやった感」みたいなのが残る。


その翌日。


目が覚めて冷静になってから襲い掛かったのは強烈な罪悪感。


「ああ、俺はなんていうことを……!!」


見知らぬ通行人を暴行し、店の商品を食い漁り、暴れまわる。

記憶が残っていることで自分の行いの重大さで押しつぶされそうだ。


しかも、記憶が残っていることで

パーク内での行為を現実で起こしていたような錯覚すら出てくる。


「ちがうちがう、ゲートが壊れていたんだ。

 だからあれはパークでの行為だ。大丈夫、俺は悪くない……!」


完全に現実と同じに作られたクローンパーク。

記憶が残る事での、現実との記憶混同。


「ああ! どうして記憶を残しちゃったんだ!

 俺は本当に悪いことをしたのかしていないのか!! ハッキリしてくれ!!」


正常な思考ができなくなった末にたどり着いたのは極論だった。


「……そうだ……もう現実で同じことをしよう……。

 そうすれば、あの出来事が現実だったにせよ、パーク内の出来事だったにせよ

 俺は悪い事をしたってハッキリできるはずだ……」


パークでの同じ場所、同じ時間帯に到着する。

今から同じように暴れまわれば、この記憶の葛藤から解放される。


「よし、いくぞ……!!」


油断し切っている通行人の後ろを歩く。

無防備な後頭部が目の前に迫る。


この瞬間。




「だ、ダメだ……できない……」


パーク内では思い切り殴ったはずの拳を動かすことはできなかった。

感触も同じなのに、この世界では同じことができない。


この人を殺したら、残された家族はどう思うか。

必死に育ててきた両親はどんな気持ちか。

一緒に同じ時間を過ごした友達はどう思うか。


頭の中をいくつもの人間関係などがチラついて、凶行に及ぶことができない。


現実とパークとは全く違うんだ。

どんなに見た目が同じでも俺は明確な線引きを行っている。

マリオをプレイしていても、マリオと同じことができるわけじゃない。


「これでハッキリした。俺の記憶は正しかったんだ。

 現実世界で悪さなんてできるはずがない。混同なんてもうしないぞ」


自分の記憶にしっかりと境界線を作ることができた。

これでもう現実と記憶の板挟みで悩むことはない。


ふたたびパークに行くと、休園の貼り紙が消えていた。


「すみません、大人1人お願いします」


「あの、お客様。こちらはパークの出口ですよ」


「え?」


「お客様はすでにパークの中にいらっしゃいます。

 退園されますか? それとも入口に何か御用が?

 入口でしたら反対方向にございますよ」


「でも、前に休園していたときは、この場所から入って……あれ?」



――それじゃ、俺がパーク内だと思っていた場所って、どっちだ。

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