戦後10年もたたない時期、急速な復興のより人々は過去の忌まわしい記憶へ背を向け、新しい希望を見ていただろう。
それでも、近くの基地から戦闘機が落ちる。否応無く過去に縛りつけられる中でも、確実に生活は変化している。
虚弱体質などの理由からか、兵役につかなかったと思われる太郎が、斬新なアイデアや機知をもって人々をリードする。七夕の飾りが町を彩る。
変わりつつあるものを本能的に嫌悪していた昌子が、次第に折り合いをつけられるように成長する姿が丁寧に描かれている作品。
余談だが、昌子の彼に対する気持ちがその後変わったのか、変わらなかったのか。そこは、カメのみが知る話なのかもしれない。
戦争は終わった。
だからと言って、人が死なないわけではない。
故意に殺されることはなくても、戦闘機の墜落に巻き込まれて死ぬことはある。
米軍基地に隣接し、そんな仮初めとも呼べる平和を手にした街の一夏を、少女の視点で描いた物語です。
大人たちのように慣れきってしまうことも、自ら変わることも、外部からの変化を許容することも出来ず、かといって次に戦闘機が堕ちてきたら自分が、もしくは近しい人が死んでしまうかもしれないという漠然とした恐怖を抱いたまま、淡々と綴られていきます。
そんな思いを抱えたまま、きっと何かを変えることも変わることもせずに、彼女は大人になっていくのでしょう。
「平和」を掲げながらも漂う重苦しさに、考えさせられる作品です。