君が為の花は咲かない

ミロク

追憶

種を蒔く



昔から、動物が苦手だった。


動物園にいっても、ゾウやキリン、ライオンを見るのが怖かった。


僕には彼らが「助けてといっているように見えたのだ。」


周りの人は皆、檻の中にいる動物を楽しそうに見ている。


その光景が、どうしても直視できなかった。


何故だろうと思う。


首輪一つついて楽しそうに散歩している犬一匹でさえかわいそうに見えるのだ。


かといって僕は動物愛護家でもなければ肉を禁止するベジタリアンでもない。


偽善者なのだろうか。


こんな考えをしている自分に酔っているのだろうか。


わからない。


でも君は教えてくれた。


僕は花が好きだ。


薔薇、紫陽花、菊、向日葵に果ては小学校見られるようなでチューリップや道端に生えてるタンポポまで全部。


そしてそれは君が教えてくれた。


あの日、あの時、気分で花屋で入った時、


僕の視界が変わった。


どことなく古い感じの木製の部屋、ずっと使われているのであろうジョウロ、そして君が大事そうに抱いていたあの淡い色のヒヤシンス—————


一目惚れだった。


その場で告白をして、あえなく振られ、それから毎日通った。


気持ち悪い行為だとはわかっていた。でも、どうしても好きだったのだ。


そんな想いが通じたのか、一年ほどたったのちに交際することができた。


そしてそれからしばらくたち、僕らは結婚した。


夢のような日々だった。


君が「花でお家を飾りたい。」というからローンを組んで大きめの一戸建てを買い、二人で少しずついろんな花を植えていったのだ。


「あなたには動物の心が見えてるのね。」


僕が動物が苦手な理由を話した時、君は確かこう言ってくれたね。


嬉しかったけど、慰めてくれてるのはわかっていたので逆にちょっと苦しかった。


彼女は犬が好きだったから。



土を少し被せ、水をやる



あれから20年。


毎年毎年いろんな花を植えた。


近所さんからも好評で、たまに「花が欲しい」と言ってくれる人もいた。


もちろんあげた。


花を飾る人が増えるのはいいことだからと


君は本当に嬉しそうにしていたね。


でも、今この家には一種類しか花はない。


紅く、残酷な色を放つ彼岸花。


それらは庭の中央にある大きな暮石の周りを残して咲いていた。


中央にあるはずの花は……。



水をやったら、少し祈る。


咲いてくれ……咲いてくれ……と。


二人でなら、どんな花だって咲かせてこれたのだ。


でも今は、一番肝心な花すら咲かすことができない。


その花の名は「シオン」花言葉は———


—————————いや、やめておこう。





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が為の花は咲かない ミロク @Sky-hand-dantyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ