檸檬

第1話

初めて会った時から、彼はどこか、他の人とは違った気がしていた。

と言うと、すごく綺麗にロマンチックのようだけれど、私と彼との話をする時に、そういう言い方は、なんだか、違う気がする。

それはつまり、私と彼との話を「特別」にしてしまうのは、なんだかとても、違う気がするのだ。


あの時私は大学一年生で、もちろん彼も大学一年生で、季節は春で、私はいつも不安だった。

友達はできるのかとか、授業についていけるのかとか、単位を落とさないかとか、まあそういう、ありがちなことばかりだったのだけれど。

高校の先輩に勧められて始めた某ファミレスチェーン店でのバイトは、思ったより私に向いていなかったし、「とりあえず適当に」と思っていたサークルは、しっくりくるものに出会えないまま新歓期間が終わってしまった。

ついていないと言えばついていないし、それなりと言えばそれなりの新生活のスタートだった。


「じゃあ、さきちゃんも女子校出身なんだね」

大教室、肥りすぎた先生のつまらない話を聞き流しながら、私にだけ聞こえる声で目配せしてくるこの子の名前は、ええと、確か

「あやかちゃん、も女子校だったっけ?」

「そうだよ。やっぱりなんか、集まっちゃうもんなんだね。そういうのって」


「そういうの」と平然と言ってしまえるの、なんだか、すごいな。

それが大学に入って初めてできた友達への第一印象だった。

彼女の言う通り、「そういうの」は何かの引力に従っているのか、どうも集まってしまうものらしい。

入学してから約1ヶ月後、私の周りにいる友達の半数以上が女子校出身だったのには、大分驚かされた。


当事者以外には分からないものらしいが、中学や高校、あるいはそのどちらもという青春時代を、同年代の異性と関わらずに過ごしてしまった弊害は大きい。

異性との空気の共有の仕方も忘れてしまった私たちが、急に共学というジャングルに放り込まれた時、同族同士が集まって作戦会議を行うしか、生きていく術はないのである。


私たちは、強がる。けれど、弱い。

本当は、男の子が側にいる、というだけで舞い上がってしまうし、なにより緊張して固まってしまうし、本当はうまく話したいけれど、できないから、それならばもう近寄らないでくれ、とすら思う。

けれど本当は夢見ている。「ああ、私のことを好きだと思う人が現れたらどうしよう」と。

けれど、そんな風に思っていると思われるのも癪なので、何も考えていないように見せる。

天邪鬼。

本当は分かっているくせに。

恋は受動態ではないということを。


まあ、つまり、春だったし、久しぶりの共学だったし、私はそれなりに、恋に比重を置いて、わくわくしていたのだ。

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檸檬 @aoiyou22

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