2018年3月22日 影使いのイベラ
一日一作@ととり
第1話
その時、地中から黒い影が伸びてきた。黒い影は見る見る形となり、黒マントを羽織り、黒いつば広のとんがり帽子をかぶった、こどもの姿になった。こどもは帽子のつばを上げて、周囲を見回し、そこが町はずれの森の中であることを確認した。こどもは片方眼帯をしている。歳は12歳くらいだ。名をイベラという。
「危なかったな」イベラは影にいった。影はもう一つの塊になると、大きな黒猫の姿になった。「魔法使いの格好をしているだけで、絡まれるとは思わなかった」イベラは大きくため息をつくと、今までいた酒場の赤い屋根を見つめた。「イベラ様、あの者は何者だったのでしょう?」黒猫はいう。「わからん。わからんが、酒場に入ってくるなり、まっすぐ私に掴みかかった。あんな者とは関わらない方が良い」イベラは酒場での出来事を思い出した。
「ちくしょう!」マチは悔しがった。「影使いのやつ、逃げやがった!」逃げられたと解った瞬間マチは酒場から飛び出して後を追おうとしたが、すでに影使いの姿はどこにもなかった。「マチ、いいかげんにしろ」そういうのは酒場で働いてるベンジャミンだ。「お客に絡むな、ほかの客も来なくなるだろう?」マチはふてくされる。「影使いは俺の親のかたきだ」マチはいまいまし気に床を叩く。ベンジャミンはグラスを拭きながら「影使いを恨まない奴なんてこの村には居ない」といった。
3年かけてこの村はもとの賑わいを取り戻していたが、3年前に影使い同士の争いに巻き込まれて、多くの家が焼かれ、多くの村人が死んでいた。しかし、影使いは特権階級である。たいていのことは許される。というより、誰もが影使いの能力を恐れて正当に裁けないのだ。影使いは人間の心が読めるという。影使いは地獄から来た悪魔を操るという、影使いは人を簡単に殺す能力があるという。影使いは100人に一人生まれるかどうかの存在だが、その1パーセントの人間が、残りの99パーセントの人間の上に立っているのである。
影使いは、その能力を示すために黒一色の服を着ている。今や黒は影使いだけが纏える色なのだ。黑い服を着た男がまた一人酒場に現れた。「今ここに影使いが現れなかったか?」マチは即座に反応した。突進してきたマチを男は軽くいなすと「手荒い歓迎だな」と笑った。
「俺は影使いを探している」男は帽子を脱いだ。オレンジがかった赤毛が黒い服に映える。「君たちも影使いに恨みを持っているのか?」マチとベンジャミンはうなづいた。「おれ達だけじゃない、ここの村の連中はみんな影使いを嫌ってるさ」マチはそういった。「各地で影使いの悪い噂は聞いている。俺も影使いのはしくれだ。仲間の悪事を心から詫びる」この影使いの名前はアラムという。
(2018年3月22日)
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