HAPPY PEOPLE MAKE HAPPY HORSES


 HAPPY PEOPLE MAKE HAPPY HORSES



 シェルの馬房の横には、こんな言葉がある。

 赤く塗られた木製のアルファベットを壁に貼って。


 私がつけたのではない。

 以前、この馬房を使っていた馬のオーナーが、おそらく、この言葉を書いたのだろう。

 直訳すると、


 幸せな人が幸せな馬を作る。


「誰かを幸せにしたいなら、まずは、おまえが幸せになれよ」

 って、意味らしい。




 この言葉は、競走馬の調教師の藤沢師が、アイルランドに修行に行った際、同僚に言われ、座右の銘にしていることで有名になった。

 以前、この馬房を使っていた人は、競走馬関係の仕事をしていた人だから、きっと感銘したのだろう。


 そして。


 何かと落ち込みやすく、くじけやすく、うじうじ悩むのが止まらない私にも、いい座右の銘となっている。



 どうして、私だけ、こんなに頑張っているのに、上達しないんだろう?

 馬にバカにされてばかりなんだろう?

 私は、ただ、馬と仲良くしたいと思っただけなのに。

 どうしてこんな奴らと仲良くできるんだ?


 

 悩んで苦しんで、ほぼ病気になっていた過去の私。

 その日は、はるか遠くになった。



 今も「まぁ、なんとかなるさ」なんて気軽さはない。

 馬に接するには、ストイックでなければならないし、時々、それが私には欠如しているくらいだ、と思っている。

 でも、気軽じゃないのと、悩み苦しんでいるのは、全然違う。



 私は今、とても幸せだ。



 自転車で40分、ほぼ毎日、クラブに通っている。

 長い時間を、大好きな馬とともに過ごしている。

 いつも、私を待っていてくれる。

 2頭の馬房のボロを掃除し、ヘトヘトになったとしても、それがまた楽しい。

 愛情を注げば、愛情が返ってくる。

 この時間は永遠じゃなく、限りあるものだけれど、今は喜びに満ち溢れていて、やりがいもある。

 人生そのもののように。


「ボクちん、幸せ」

 と、シェルはいつも言ってくれる。


 人馬ともに疲弊して、不幸になった過去はもうない。

 人の幸せの代償を馬が払うこともない。



 幸せな私が、幸せなシェルを作り、幸せなシェルが、幸せな私を作る。




 HAPPY PEOPLE MAKE HAPPY HORSES


 シェルは、首を伸ばして、ガリガリと、アルファベットをかじった。


 nAPPY PEOPLE MAKE nAPPY HORSES


 あ。

 Hが……Hが…… n になってしまった!


 ナッピーとは、オムツのことらしい。

 オムツな人がオムツな馬を作るのか?


 おい、シェルや。

 このお話は、そういうオチなのかい?



 シェルは、つぶらな瞳で、じっと私を見つめている。

 私は、とても幸せだ。

 どこまでも、青空が広がっている……。




=了=

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Le Ciel Bleu 〜わたしの青い空 わたなべ りえ @riehime

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