刺された先はメルヘンな世界
あるぱか。
序章→クソみたいな人生
いずれこうなることは分かっていた。
ただ、実際になると案外わかんねぇもんだ。
腹部から飛び出る銀色の刃。それに付着した赤い液体。
刃が飛び出た所から焼けるような熱さと、じわじわとした痛みを感じる。それと同時に身体中から力が抜けていくのが分かる。
「あ、、ちが、本当にやるつもりは無かったの…脅すだけのつもりだったのに、いや、でも、あなたが悪いのよ!!いっつもいっつも違う女の子と遊んで、甘い言葉を誰にだって囁いて!そう、私は悪くない!あなたがクズだから、あなたが悪いの!」
ぎゃーぎゃー、ぎゃーぎゃー、甲高い声で煩い女だ。騙されるてめぇも悪いだろ。
カッカッカッカッと女のヒールを履いた足音が遠ざかっていく。
身体から力が抜けて倒れる。腹から溢れた血が顔に付く。汚ねぇ。
あーあ、多分俺、死ぬな。別に死ぬのはいいが、こんなクソきたねぇ路地裏じゃなくて綺麗なねーちゃんのデケー乳に埋もれて死にたかった。
どんどん思考能力が落ち、目の前が霞んでいく中で1つの疑問が湧きあがった。
「俺、どこで人生間違えたんだ?」
ーーーーーー
我ながら自分はかなり恵まれた環境にいたと思う。
大企業の社長の跡取り息子の親父と母親の間に双子の兄として俺は生まれた。
両親の優秀な遺伝子のおかげで容姿、頭脳、環境とにかく大体のものにおいて困ったことは無かった。
あれ、ここでは落ちぶれる要素ないな。むしろ人生勝ち組としか言いようがない。
ああ、そうだあの時は俺が中学生だったかな。
親父の会社が事業で失敗して倒産1歩手前まで落ちぶれた。更に母親の浮気で両親は離婚。俺は母親に引き取られ、一気に貧乏生活。母親は浮気相手に見事に利用され風俗に堕ちた。その数年後には自殺。
ああ、ここからだ、いまの俺が出来たのは。
この頃から家に帰るのが嫌になった。夜の街を歩き回って、ろくに学校にも行かなくなった。その時出会った恩人に、女の落とし方、ギャンブル、酒、煙草、今の俺を形成する要素を全て教わった。
これからは知っての通り。
馬鹿な女に思ってもねぇ甘ったるい言葉を気持ちわりぃ笑顔で囁いて。
愛なんてねぇ快楽だけを求めた行為。
上っ面だけの愛を囁いて金を貰う。
その金で煙草を買って、ギャンブルに向かう。
勝ったらその金で、負けたら適当な女に貰った金で、女と酒を買う。
そう、こんな楽しい毎日。
そんな俺を見て大体のやつは俺の事をクズと呼ぶ。
別にクズと言われよう俺は気にしねぇ。言ってくるやつが嫉妬してるとしか俺には思えねぇからだ。
最低だ、というやつもいるがイマイチ俺には分からない。女も好きで貢いでる、俺はその好意に応えてるに過ぎないからだ。
そんな事を今日もしていたらこの有様だ。
こうなることは色んなやつから言われていたし、俺自身いつかそうなるだろうと思ってたから別にいいけどな。正直やり残したこともない。
「あーあ、クソみたいな人生だった」
身体がどんどん冷えて、重くなる。
目の前がフェードアウトしていく。
そうして俺の人生は終わったはずだった。
ーーーーー
目が覚めた時、俺の腹にはあるはずの刃と傷がなかった。
それどころか路地裏の生ゴミの匂いではなく女の香水のような花の甘い匂い。
冷たく硬いコンクリートではなく柔らかい草の感触。
ネオンがギラギラと光っていて星など見えない空は絵に描いたような綺麗な青い空。
怪しいキャバの呼び込みのボーイの声や酔ったおっさんのでけぇ声は清流や風、小鳥の鳴き声に変わっていた。
もしここが天国だとしても心が汚れ荒みきった俺の思った事はただ一つだった。
「なんだこのキメェ場所」
刺された先はメルヘンな世界 あるぱか。 @arpk102
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