聖女と魔女と

シキ

第1話 聖女と魔女

町から少し離れた教会。

そこには若い聖女と牧師が住んでいた。


「ルーさんルーさん、たいくつです」

「はいはい、おとなしくしててください聖女様」

聖女が牧師の背中に掴まって引きずられていた。 聖女の名前はマリー。 牧師の名前は……ルーさん。 まぁ、そのうち呼ばれるでしょう。

「いつ誰が来るかわからないんですからおとなしくしててくださいよ。 あと、私は掃除をしてるので相手を出来ません」

「誰か来たらちゃんとするので大丈夫です」

ルーさんは暫く聖女、マリーを引きずったまま掃除を続けた。

「相変わらず仲良いなお前ら」

教会の入口に黒いワンピースドレスにとんがり帽子。 見るからに魔女という姿の少女が立っていた。

「魔女さんいらっしゃーい」

「あぁ、メリーさんですか。誰かにメリーさんは入らないんですか? まったく。 すいませんが聖女様の相手をお願い出来ますか?」

「おーいいぞー。 さーマリー、私の相手をするがいい」

身長はほぼ同じなのにマリーを腕で抱えて外に連れていった。 その際「いやー、ゆうかいはんー」とか聞こえた気がしますが気のせいでしょう。

「さて、お茶とクッキーを出したら掃除を再開しますか」


「メリーはほんとにタイミング悪く来る。 甘えたかったのに」

ルーさんが用意したクッキーを食べながらジトーっとした目でメリーを睨むマリーに悪びれもせず、

「掃除の邪魔したらダメでしょう? 手伝って早く終わらせてから甘えるか終わってから甘えなさいね」

あ、口調変わってますがマリーが聖女でメリーが魔女です。 間違えないように。

「メリーはほんといい子ね。 私と変わらない?」

「あら、ルーさんに朝起こしてもらえなくなってもいいのかしら?」

ころころと笑いながら言うメリーに顔を真っ赤にするマリー。

「おや、聖女様顔が赤いですよ? 風邪引きましたか?」

掃除を終わらせ、追加のクッキーを持ってきたルーさんが心配そうにマリーの顔を覗く。

「だ、大丈夫。大丈夫です」

「そうですか? 体調悪いならすぐに言ってくださいね」

「ここに魔女も居ることだし薬はまかせなさい」

メリーはマリーの反応を楽しそうにしている。

「それにしても魔女という名称はどうにかなりませんかね。 災厄を招く存在ではなく薬草等を調合して薬を作ってくれているのに失礼だと思うのですが」

「ははは、仕方ないよ。 箒で飛んだり、魔女らしいことも出来るからね。 それに、人間は理解出来ないものを恐れる質があるからね」

「自分から歩み寄れば理解できるのですがね」

「ルーさん、それが簡単に出来たら苦労しないです」

あきれ顔のマリーがクッキーを食べながら続ける。

「普通は恐ろしいと思って決めつけてしまっているものに近づかないですよ。 ルーさんだって野生のクマとかオオカミに自分から近寄らないでしょ?」

「動物全般には何故か好かれてなつかれますがね。 確かにわざわざ自分から火の中に手を入れたりはしませんね」

「……例えを間違えました」

「ルーさん、色んなものに好かれるよね」

今度はメリーがあきれ顔。

「そういえばこの前オオカミに囲まれたときもルーさんが出た瞬間飼い犬みたいになってましたね」

「私が見たのは人と同じ大きさの鳥がルーさんに頭を押し付けて甘えてるところだね。 襲われてるのかとびっくりしたよ」

「何故か好かれるんですよね」

「野生すら骨抜きにするルーさんの魅了か」

呆れながらもクスクス笑うメリー。

「そういえばメリーさんは何か用事あったんですか?」

「薬を薬屋に卸して、売ってる薬草を買いにな。 荷物はミィに任せて遊びに来た」

「ミィちゃんもふもふしたかったのに」

メリーの使い魔のミィは猫の姿をしていて、お察しでしょうが黒猫です。

「また今度な。 ここは薬はまだ足りてるかい? 使用期限はまだあるけど足りてないなら置いていくよ」

「私も聖女様もめったに風邪を引きませんからね、 まだ大丈夫ですよ」

「ルーさんが体調管理してるし大丈夫か。 それでも引くときは引くんだし気をつけてな」

「はい。 ありがとうございます」

「メリーの薬はよく効くって評判よね」

たまにだがメリーの薬の礼を言いに教会まで来る人がいる。

「薬と言っても体の抵抗力を高める栄養剤みたいなものだけどな。 風邪通り越して病気なら直接見て薬作らないと逆効果になるし」

「よくわかるよねー風邪とか病気とか」

「こればかりは経験しかないね。 本来なら薬を試してくれる人を探すのも大変なんだけど……」

「町の人達は我先にと来ますね」

「メリーの薬なら大丈夫って信頼してるみたいだしねー」

町の人達からの信頼される魔女メリーさん。

「普通はこっちから頼むか無理矢理使わせるかなのにねぇ。 おかげで助かってはいるけど」

「町の人は全員一度はお世話になってますし当然でしょう。 流行り病の特効薬を作って自分で薬を配った後、町の宿に泊まって対応してたのを皆さん知っていますし」

「一部の人達から黒の聖女って呼ばれてるし」

「なにそれ私知らないんだけど⁉」

「魔女さんファンクラブとかもあるよ?」

「えぇー……」

顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏すメリー。 しっかりとクッキーの皿を回避させるマリー。

「聖女二人が守る町なんて他に無いでしょうね」

ルーさんがクスクス笑いながら二人を撫でる。

マリーとメリーは顔を合わせにっこりと笑い。

「「私たちも支えて貰ってるから御返ししないとね」」

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聖女と魔女と シキ @yukishiro8813

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