第3話
「提案?」
「そう、提案」
嫌だなぁ聞きたくないなぁ。この腸詰め肉美味いなぁ……
「おい、貴様! カオル様が話しているのだぞっ、食べるのをやめろっ」
女騎士うるさい。
「クレア、そう声を荒げないでくれ。けれど、手を止めて聞いて欲しい。大事な話だからね。話が終わったらまた食べてもいいから今だけは聞いて欲しい」
なんだよ真面目くさって。こっちは聞きたくないよ?
「端的に言おう。僕たちの救世の旅に同行して欲しい」
「お断りだ」
「貴様ァッ!」
女騎士口を挟みすぎぃ〜
「一応聞くけど……、どうしてだい?」
「勇者様のお仲間は皆さん身元を保証された方ばかりだ。そこに俺みたいな得体の知れない男を放り込む訳がわからん。そもそも役に立つかも不明だ。小間使いなら他所を当たりなっ」
すると、勇者は顔に手を当てながら顔をにやりと歪める。
「うーん、身元がわからないねぇ……。テルクスの里、元次期族長候補筆頭ヒュンフ────っとぉ」
俺は机を割りながら床に叩きつけられていた。
「ごめんね、良くないこととは思っているけれど、手段を選んではいられないんだ」
全く悪びれた様子もなくそんなことを言う。
「何処でそれをって顔をしているね。そうだね、仲間になって欲しいって言っているのは僕なんだから能力は明かした方がいいかな。……僕は対象の簡易プロフィールを見ることと過去を僕基準で良くないと思う行動のみ暴くことが出来るんだ。そしてその良くない行為の動機、経緯まで分かっちゃうんだよ」
何だその妙ちくりんなチートは?
知らず体から力が抜けて、殺気が霧散する。
……そうか、俺は殺気を出していたのか。自分では割り切っていたと思ってたんだけどなぁ。
自嘲の笑みがこぼれる。
「本当に済まないと思っている。訳の分からない能力でいきなり秘密を暴かれたんだ、君からすれば相当な理不尽だろう」
説得下手なのかな? どうやら俺が転生者なのは知らないみたいだけど……まあ隠しているだけかもしれないけど。
「────だけど、そうまでしても君の力が欲しいんだ」
一瞬嫌な顔が脳裏に浮かんだが、それを振り払った。
何を馬鹿な、こいつはそもそも男じゃないか。どちみち選択権はない。
「俺を抱え込むってことは面倒事を抱え込むってことだが、大丈夫かい?」
だから俺にできるのは精一杯虚勢を張って笑うことぐらいだ。
「誰に言っているんだい? 僕は勇者だよ。この世界の人々みんなの未来を背負っているんだ、面倒くさい男の1人や2人、どうってことはないに決まっているじゃないか」
果てしなく不安だが、まあこれも一興だろう。既に燃え尽きてた人生だ、元同郷のチート君を助けるのに使ってもいいさ。
「よろしくお願いするぜ、雇い主さん。……早速で悪いんだが、飯のおかわりを頼む」
使用人さんたちが手早く割れたテーブルや落ちた皿を片付けて、新しいものを運びこんでくる。流石にテーブルは代替のものとして小さいものだが、プロフェッショナルさを感じる。……かっこいい。
うーん、オムレツが美味しい。それと勇者以外の面々は俺の参加には不満がありそうだ。
「そういえば、ヒュンフっ──て名前は嫌なんだよね?」
また、少し殺気だってしまった。ああ忌々しい。
「ああ、とっくの前に捨てた名だ。今はただのろくでなしだ」
「じゃあさ、僕が名前を考えてあげるよ」
うわぁ、上から目線。
「カオル様! カオル様がわざわざ名前を与える必要などありません。このような者、犬で十分かと」
おーい女騎士ぃ? 高貴な生まれなのに品位のカケラもないな!?
「栄光ある勇者パーティに犬が名を連ねることになるけどいいのかい?」
「くっ、減らず口を……」
「クレア、君の気持ちもわかるけれど、彼はもう僕たちの新しい仲間だよ。……えっとクレアがごめんね」
「別に、どうでもいい」
「なんだとっ、貴様ッ!」
「クレアッ! ……しばらくゆっくりしていてくれ。名前も考えておくからね」
くだらない茶番劇である。あれだな、テンプレ女騎士は実際相手にするとウザいな。
あ、すみませ〜ん。おかわりくださ〜い。
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「カオル様、本当にあのような気の短い粗暴者を仲間に加えるのですか!?」
君がそれを言うのかい。平常通りの仲間の金髪の女騎士の発言に苦笑いが漏れる。
「それには、私も同感です」
すると、魔術士の少女が追随の言葉を投げた。先程は余計な口を挟まず黙って静観してくれていただけに驚いた。
「あ、あのっ、私は……その、根はすごく善良な方だとっ、……思います。……ただ、生きる気力が薄いことが気掛かりです」
肯定的なのは彼女だけか……。ただ気弱な聖女である彼女が控えめながらも自分から主張するくらいには気になるところがあるようだ。
「3人とも、彼の経歴は教えただろう?」
「蛮族の里で蛮族として育てられたんでしたっけ?」
意外にも魔術士の少女、エリオラが辛辣だ。こういうのは女騎士、クレアがいの一番にこき下ろすのだと思ったけれど。
「エリオラさん、違いますよぉ。武術の隠れ里で人倫に反する育て方をされて、そこに疑問を持ったから出奔した。……そう、ですよね?」
フィオナはかわいいなぁ。パーティ唯一の癒しだ。
「ふん、武術の隠れ里なんて言っているがやっていることはただの盗賊行為だ。蛮族で間違ってないだろう。それに疑問を持ったことは立派なことだが、奴は逃げだしてきたのだろう? 本当に役に立つのか疑問だな。殺気だけは一丁前だったが……」
うーん、クレアは興奮さえしていなければ、ね。いい子なんだけど……
「お話はもういいかな? 3人には簡単な経歴しか伝えてなかったから、詳しく教えておこうと思ってね。まず、出奔してきたって言ったけど、彼はしっかり里を潰してから出ているよ」
この言葉にクレアがまず反応した。
「皆殺しですか?」
「いや、彼に殺人の経歴はなかったよ。ただ、相応に残虐行為はしたみたいだけど。まあ対象は害悪でしかない大人連中だけだし、攫われた元村娘たちや最低な教育を受けていた子どもたちには里を出ることを勧めて出てきたみたい。それで里の秘伝書を全部持ち出して、……珍品として売っぱらっているね」
最後が締まらないなぁ。焚き書とか秘匿じゃなくて珍品として売りに出すだもんなぁ。
「あの……、ではなぜ彼は面倒事を抱え込むなんて言ったんですか?」
フィオナちゃんは実に良いことを聞いてくれる。
「彼は里を出る際に大人連中に残虐行為を働いたって言ったよね? その際に大半は武闘家生命を絶っているんだけど……、自分と同年代の子たちは十分に教育が済んでいたにもかかわらず、子どもとして容赦をかけたんだ。少しは痛め付けたみたいだけどね。その子たちからしたら彼は里を壊滅させた悪者なわけだろう? なのに彼はわざわざ復讐を煽るような言葉を残してから出て行ったみたいなんだよ。罵倒した記録が出てきた」
動機が彼らの生きる目的になるため、だったんだよなぁ……ちょっとクサ過ぎるよね。
「残虐行為の動機のを見たけれど、彼が負ってきた傷はとても多い。僕たちの旅は救世の旅だ。傷ついた彼を救うのも僕たちの役目だと思わないかい?」
「それで、私たちに彼を慰めろと? いえ、そうですね。古来より傷ついた男性を癒すのは女性でした。勇者様がそう仰るなら従いますとも」
軽く言い放った言葉に、思ってもみなかった言葉が返ってきた。
「そんなつもりじゃ────」
「失礼、少し意地悪でしたね。お許しを」
今日のエリオラは少し辛辣である。
チート野郎マジ許さない……あ、なんでもないです。ちゃんと働きます。 @Suzuki-Romy
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