第2話
うぅっ……久しぶりにまともに攻撃をもらった。並みの人なら内臓が破裂していたのではないだろうか。
……ん? 俺、意識を飛ばしたよな。生きているし、拘束されてもいない? あと見上げた天井も見慣れた汚いやつだ。実はそれほど時間は経っていないのか? ただ、力が入らない。
そのときニュッと視界にプラチナブロンドの美少女が入ってきた。
そうか、俺は死んだのか……
再び意識を手放した。
チュン、チュンチュン。
柔らかな朝陽を浴びてふかふかのベッドから起き上がる。
おぉう、なんて理想的な朝っ……! ここはもう天国か。
生まれてこの方、決して過ごすことのなかった穏やかな朝。俺が心の底で求めていたのはこれだったのかもな……
知らず、涙が頬を伝う。
そのときコンコンとリズムの良いノックと共に「入りますよ」と声が聞こえた。ドア越しであるが、その声が美しいものなのがわかる。
「はい」と短く返事を返す。
確信していた。
そして、ドアが開くと現れたのは美しいプラチナブロンドの髪。
「お目覚めになられたのですね……っ!?」
鈴の音が鳴るような声とはこのような声を言うのだろう。俺はベットから飛び出し平伏していた。
「ありがとうございます、女神様っ! 私はもう思い残すことはございません」
これを感動に
「あ、あのっ、お顔をお上げください」
慌てたような声も美しい。
「今の私の顔は見るに堪えません。女神様にお見せするわけにはっ」
「わわわ、私、女神様じゃありませんよ!?」
「しかし、ここは天の国では……」
「ここは天の国ではないよ、国王より与えられた僕の部屋さ」
聞き覚えのある声が割り込んできた。
俺の沸いていた思考が正気に戻った。顔を上げる。
そこには可哀想なものを見る目をした勇者と思いっきりドン引きしている少女魔術士、そして虫を見るような目をしたくっころが似合いそうな女騎士。
とりあえず言っておかなければいけないだろう。
「はんっ、やっと冤罪に気づいたか! 口止め料はよっ!」
即座に女騎士が剣を抜きかけ、魔術士が魔力を噴出し、女神の平手打ちが炸裂した。
女神の平手打ちで部屋の時が止まった。
俺は頬を思わず抑えた。思わず、親父にも────、とか言いそうな青年みたいになってしまった。
そこで、ハッと女神が我にかえると申し訳なさそうに口を開いた。
「あっ、すみません。……でも、カオ、勇者様はあなたが罪人でないことを見抜き、救ってくださったのです。本来ならばあなたはあの場で盗賊と一緒に処断されていてもおかしくありませんでした。それをあなたは……」
「ちょっと待ってくれ」
優しく懇々と説明するする彼女の声を遮り俺は声をあげた。
「あそこは確かに後ろ暗いことをしているような奴らが多くいるような酒場だった。けどそれはそいつらが悪いのであって、酒場の主人や普通の客として来ているゴロツキは悪くないだろう」
すると女神は可哀想なものを見る目で俺を見て、口を開く。
「あのですね、その、あの酒場は領主と繋がりのあった盗賊団が領主から見逃されるように作った街でのアジトです。あそこに出入りするようなゴロツキは盗賊団の下っ端です。酒場の主人も盗賊団員です。街の人たちは悪党以外誰も近づきません。盗賊たちはあなたが堂々と入り浸り、尚且つ腕が異様に立つので領主の監視だと思っていたみたいですが……。えっと、とにかく全てあなたの勘違いです」
そんなこと言われてなんて返せと?
あー全員から可哀想なものを見る目を感じる。
「…………」
「とりあえず、ご飯にしようか!」
勇者が明るい声で空気を戻しにかかる。その気遣いが辛い……
さて、俺は食事の歓待を受けるに際し勇者をはじめとする勇者パーティの御一行の自己紹介を受けた。
勇者の名前はカオル・タチバナ。異世界である彼の故郷ではタチバナ・カオルと呼ぶとかなんとか。たぶん、
彼、やっぱり日本人だ。濡羽色の髪も黒い瞳も、この世界の極東出身とかではなかった。と言うかやはり召喚勇者である。彼単体の召喚なのか集団での召喚なのか、集団だったら嫌だなぁ。
彼を以前小さく、彫りが浅いと言ったが、日本人としては平均よりやや高い背だし、彫りも日本人としては深い方だ。鼻も高いし、色も白いし、さぞモテモテだったんでしょうなぁ? クッソ転移してもエキゾチックな雰囲気のイケメンにしか感じないとかクッソ。パーティもハーレムパーティだし、たぶん自称普通(笑)の高校生なんでしょうよ。
え、なんでそんなに日本人に詳しいのかって? 俺が転生者だからだよっ!
なんか踏み台転生者っぽくて嫌だなぁ。クソッ、いい飯食いやがって。俺なんて、俺なんて……
おっと、他の勇者パーティの面々についても考えておくべきだよな。なんか一部政治の臭い(小並感)がプンプンしてたし……
女神、改め聖女。プラチナブロンドの髪の美少女は聖女であった。名はフィオナ。しかしながら本来は聖女になれるはずがなかったんですけどね、と本人が苦笑混じりにこぼし勇者に「そんなことを言わないでくれ、フィオナは間違いなく聖女じゃないか」と怒られていた。
そう、確かにおかしいのである。聖女はこの国はもちろん、周辺国全てに影響を及ぼしている一大宗教。そのため多くの貴族が子女を送り込んでいる。
前世日本人の俺的には、なんとなく出家すると家名を捨てるイメージがあるがそんなことはなく、シスターは貴族出身の家名持ちの高位の者と庶民出身の家名無しの低位の者がいる。当然聖女なんて素敵な
次に少女魔術士。一応美少女。銀髪に蒼い目、あざとい! 狙い過ぎだ。知的な見た目に反して中身はお子様(推定)。男爵家の六女だそうだ。これまた身分が軽い。あ、名前はエリオラ・サテライトだってさ。
最後がくっころが似合いそうな金髪碧眼の女騎士。サークレア・エヴェリン。こいつなんと、侯爵令嬢である。ファンタジィな世界だから普通に男より強い女とかざらにいるから戦闘職の女性は多くもないけど珍しくはない。しかし高位の貴族令嬢が戦闘に身を置くのは凄く珍しい。政略的に価値が高いと思うんだけど……。そんな思いが不躾な視線になっていたのか、「貴様も貴族の令嬢が騎士を目指すのがおかしいと思っているなっ!」とか激昂してきた。それで察した。こいつに貴族の世界で生きるのは無理なんだな、と。
聖女、魔術士は失っても別に痛くないし、旨味がある。そして女騎士は不良債権を有効活用。それに女ばかりなのは勇者とワンチャンあるんじゃないってやつだ。
あー、これ、おいしいご飯を食べながら考える話しじゃないな。
あ、これ美味い。おかわりくださ〜い。
「んん、美味しそうに食べているところ悪いんだけど、僕たちから君に提案があるんだ」
なんか勇者が話し始めた。
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