チート野郎マジ許さない……あ、なんでもないです。ちゃんと働きます。
@Suzuki-Romy
第1話 プロローグとか言っておけば問題ない
埃臭く酒臭い、店も客も小汚い街はずれの酒場。昼も夜も入れ替わり立ち替わりろくでなしどもが出入りし、酒を飲んでは下品な笑いを響かせ、朝はいびきをかく。乱闘はザラだし、恐喝、暴行あたり前。そんな糞みたいな場所だが、その片隅が今の俺の居場所である。
たまに
が、そんな平穏は破れさった。1人のチート野郎の自己満足のために……
「頼もうっ!」
「あん?」「なんだぁ?」「ガキじゃねーか」
そいつは突然現れた。そして見回してこういった。
「ほう、ここが悪党共の巣窟か」
「おいおい、何処の国の貴族の坊ちゃんかは知らねーが、綺麗なお顔が傷ついても知らねーぞ」
「おいおい、その顔なら変態共に売れるって」「傷つけるなんてとんでもない」
1人の男がそいつを見下ろし、酒臭い息を吐きかければ、周りがやいのやいのと野次を飛ばす。
まさにオーガの群れに囲まれてしまった小男である。男が山賊の親分のように大きいのもあるが、そいつがこの国の平均的な男に比べて小さいのが主な理由だろう。
そいつの髪は濡羽色といえる艶のある黒髪で、それを男にしてはやや長めに伸ばしてある。そして瞳は黒く、整った顔立ちだが彫が浅くやや平べったく思える。そしてやや幼い。
しかし、身長にしても顔立ちにしても原因は人種的なものだろう。俺はこの外見特徴を備えた民族を知っている。そしてこういうときのお約束も、だ。
男が宙を舞った。筋肉隆々の大男が、だ。周りの奴らの多くは唖然としている。
そして一部の腕の立つ、猛者ともいえる奴らは武器を持ち、飛び掛かっていた。
────が、全員叩き伏せられた。剣を鞘から抜かずに鈍器として滅多打ちにした。言葉にするとただそれだけでしかないが、その動きは洗練されており、それ故に化け物じみた身体能力が際立っていた。
これは勝てない。
だが、とても逃げられそうにない。そいつが今、漸く状況を理解した連中を逃げ出そうとするものから叩きのめしているから。そして俺の今いる場所が悪い。壁を破るか? しかし俺は純粋な客であり、ここに来る大多数と違い、特に後ろめたいことをしているわけじゃない。というか店内で暴れるこいつが無粋だ。表でやって欲しい。
そうこう考えている間に俺以外全員叩きのめされてしまった。……って、マスターまで!?
確かにマスターは悪人面だ。だが彼はなかなかユーモアのある気のいいただの酒場の主人である。店の立地はアレだが、はみ出し者が出入りしやすい隠れ家的な店を演出しているのだ。お前の偏見染みた正義で潰していい店じゃない!
俺が立ち上がるのと、そいつがこちらを見据えるのは殆ど同時であった。
そいつはこちらを見てどこか怪訝な顔をしている。よくわからないが、問答無用ではないようだ。
「ここは酒場だ。酒を飲む場所だ。お前の安っぽい正義で荒らしていい場所じゃない。世直しなら外でやってもらおうか」
言った、言い切った。相手はチート野郎。それも独りよがりの正義に酔った糞ガキだ。逆上されて次の瞬間にはミンチかもしれない。だが、言い切ってやったぞ!
するとそいつはこちらをじぃーっと見つめてくる。
な、何なんだよ。やや、やるのか? あぁん?
するとそいつの顔はこちらを憐れむような表情を作った。
憐れむなよっ! ふざけんな、お前のは不正で手にした力だろ!? そりゃお前からしたら子犬が吠え掛かっているようなもんかもしれないけどなぁ、こっちからしたら────
「勇者様っ!」
俺の思考は場違いな甲高い少女の声に遮られた。
店の奥、裏口から入ってきたのだろう。出てきたのは、声だけじゃなくて見た目も少女な魔術士。
そして彼女が発した言葉、勇者。あ、これ1番調子乗っちゃうやつじゃん。武力に加えて権力とか馬鹿だろ。逃げるのに軽く攻撃してももちろん、こいつが苛立ち紛れで濡れ衣着せてくるだけで投獄&処刑の即死コンボだよっ!?
「なっ、残党!? いえ、こいつが親玉ですね」
そしてその少女魔術士は俺を悪党と断定したようだ。魔法を詠唱し出した。
くそっ、やるしかないか!
「待っ」
何か聞こえた気がしたが気にしていられない。相手はチート召喚勇者と勇者パーティに選ばれるほどの魔術士。だが、何もしないのは性に合わない!
だから、自分を信じて抵抗する。
魔力を右手に収束させる。螺旋を描いて魔力を逃がさないように束ねて、纏う。既に脚は床蹴り出していた。魔術士は目を見開いて驚くのみ。全く反応出来ていない。
が、隣の勇者は反応出来ていた。
しかし、こちらも気づいているわけで、身体を捻り、咄嗟に出たであろう突きを避けて魔術士の足元の床を殴る。
床は爆発するように砕け、飛び散る木片。俺が殺す気なら魔術士は死んでいたぞ勇者。
あとは、もうもうと舞う埃に紛れて脱出するのみ────っ!?
俺の腹に鋭く重い衝撃が入り、俺の意識は遠のいた。
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