Monologue.4

 基地の中でその後に何があったのか、私は知らない。何にも明かされてない。


 橋の崩落と設備の壊滅と、結果的に機能を果たせなくなった基地はあれからすぐに投棄された。アノマリーも来なくなった。トゥエルブは今や、海にぷかぷかと浮かぶ、単なる立ち入り禁止の無害な島になった。


 何もかも全部闇の中になったけれど、まあ、とりあえず、少なくとも私が出撃することはもう無くなった。だから、私の望みが叶ったと言えば、そういうことになる。


 そんなわけで、私は今ここにいる。


 ええと。

 

 ヒトモドキ? として。


―――


 あの後、私達カナリアはそれからずっと別の場所で待機され、基地の研究者とは別のヒト達にさんざん色々と身体中調べられたあげく、任期が過ぎれば順次解放された。私も半年ほど待ってここに来た。

 よっぽど慌てていたのか、連中は記憶処理を忘れていた。する必要がなかったのかもしれない。基地で何が起きたか公表は一切されてないし、どうせ私が言ったとしても誰も信じてくれないだろうし。


 だから、これ以上何かするつもりはない。他のみんなも、たぶん同じだろう。


 私達やアノマリーが結局何者だったのか、基地では何をしていたのか、今となってはもうどうでもいいし、知る意味もない。


―――


 私と、それから同じタイミングで解放された何人かのカナリアは――解放はされたけど、そうは言ってもどこにも行くアテなんてなかった。そこで、私はあの男が渡したメモの事を思い出した。文字なんて読めないから、そこらへんの人に聞いてここに辿り着いた。


 着くなり、元カナリアだとかいう“ヒトモドキ”は私達を迎え入れた。寒い日で、コーヒーが暖かかったことを覚えている。


 彼女は私があの男から貰ったメモを、何故かいつまでも持っていた。私達が来てから一ヶ月も立たないうちに彼女は“溶けた”けれど、あのメモは最後の最後まで大事そうに持っていた。


 まあ、色々と想像はつく。


 今度もし出会ったら、礼と、あと、さんざん言い散らかしたことくらいは詫びておかないとならないな――とは思っている。けれど。


 たぶん、二度と会うことはないだろう。


―――


 あの“ウタ”は一体なんだったのか。


 私だけでなく、あの事件の時にいたカナリア達は今でもなんとなくあのメロディを口ずさむことが出来る。すっかり憶えてしまった。前オーナーはそれを聞いて「“懐かしい感じ”」だと言った。懐かしいの感覚自体がよくわからないけれど――どこか遠い、見知った場所に帰りたくなるのだという。


 もしかしたら。


 あの娘は、一人で基地に帰ってきて、そしてトゥエルブに“還った”。


 そういうことなのかもしれない。


―――


 最近、一緒にここに来たうちの一人が溶けた。これで三人目。

 私も、きっと、そう遠くない。


 死にたくない、とは今でも感じている。

 でも。

 それが“死”じゃなくて“還る”ことなのだとしたら、まあ、それは悪くないこと……だと思う。どうせ嫌になるから、あまり考えないようにはしているけれど。


―――


 あの男から貰った煙草は、最後の一本だけを残して、今は手元に置いている。最期の最期に一服やるつもりだ。


―――


 次に還るとしたら、私はどこに向かうのだろう。

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唄を忘れたカナリアは 黒周ダイスケ @xrossing

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